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2023年11月の条件付き採択から2026年3月の正式採択まで、さくらインターネットはデジタル庁が定める305項目の技術要件を2年余りかけてクリアしました。四半期ごとの進捗発表・遅延発生・石狩第3ゾーン開設——国産クラウドが辿った軌跡と、自治体担当者が今確認すべきポイントを解説します。
2026年3月27日——デジタル庁は「さくらのクラウドについて、すべての技術要件を満たしたことを確認できたので、2026年3月27日以降本番環境の提供が可能となります」と公表しました(デジタル庁 ガバメントクラウドページ・2026年3月27日)。これにより、さくらインターネット株式会社の「さくらのクラウド」は国産クラウドとして初めてガバメントクラウドに正式採択され、AWS・Google Cloud・Microsoft Azure・Oracle Cloud Infrastructure(OCI)に加わる5番目のクラウドとなりました。
しかしこの「正式採択」に至るまでの道のりは、2023年11月の条件付き採択から数えると2年以上にわたります。四半期ごとに発表された進捗報告には、遅延の発覚・体制見直しといった局面も記録されています。自治体情報システム担当者にとって「さくらのクラウドは今どの段階なのか」「選定候補として実際に使えるのか」という疑問は当然です。本記事では、デジタル庁が公表した一次資料をもとに、その全プロセスを時系列で整理します。
ガバメントクラウドへの採択に際して、デジタル庁は事業者に対して厳格な技術要件への適合を求めています。令和8年度募集の調達仕様書(デジタル庁 調達仕様書別紙)に基づくと、要件はサービス全般・コンピュート・ストレージ・データベース・ネットワーク・セキュリティ・サポートの7大分類から構成されます。
特に厳しいとされる要件を下表に抜粋します。
| 分類 | 代表的な要件(抜粋) |
|---|---|
| サービス全般 | 全DCは日本国内の複数地域に設置(例: 関東と北海道)、Tier3相当の耐震基準適合 |
| コンピュート | 1インスタンス最大64コア以上・メモリ最大1TB以上・停止中は課金なし |
| ストレージ | 容量最大16TB以上・IOPS 50,000以上・アーカイブは99.999999999%耐久性 |
| セキュリティ | ISMAP認証取得・FIPS 140-2準拠の暗号鍵管理・BYOKサポート |
| データ主権 | データは日本国内保管、退避先も日本国内 |
| サポート | 24時間365日・初回応答時間の明示・障害情報のリアルタイム公開 |
AWS・Google Cloud・Azure・OCIはこれらを既に満たした状態で採択されています。さくらのクラウドは2023年11月に「2025年度末(2026年3月末)までに全要件を満たす」との計画を条件付きで認められたことから、段階的な開発・整備が求められました。
デジタル庁は2024年以降、さくらのクラウドの開発進捗を四半期ごとに公表しました。以下はその全記録です。
flowchart TD
A["2023年11月\n条件付き採択\n2025年度末までに\n全要件を満たすことが条件"] --> B["2024年3月\n2024年1月末時点\n一部項目で遅延も\n回復見込みあり"]
B --> C["2024年5月\n2024年3月末時点\n大きな遅延なし"]
C --> D["2024年10月\n2024年9月末時点\n遅延なく順調"]
D --> E["2025年5月\n2025年3月末時点\n体制・計画の\n見直し必要と判明"]
E --> F["2025年11月\n2025年9月末時点\n見直し項目あるも\n全体計画は継続"]
F --> G["2026年1月\n2025年12月末時点\n計画の見直し項目確認\n全体計画には影響なし"]
G --> H["2026年3月27日\n全技術要件クリア\n本番環境提供開始\n正式採択確定"]
注目すべきは2025年5月の発表です。2025年3月末時点で「体制及び計画の見直しが必要となる開発項目」が確認されています。これは前四半期(2024年12月末)まで「順調な開発進捗」とされていたため、現場にとっては予期せぬ変化でした。ただしデジタル庁は「開発計画全体には影響なく」という評価を一貫して維持し、最終的に2025年度末という期限内に全要件の充足が確認されました。
さくらのクラウドが2年以上を要した背景には、国産クラウドならではの構造的課題があります。
1. セキュリティ認証の取得難度
ガバメントクラウド要件にはISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への登録が含まれます。ISMAPはNIST SP800シリーズをベースにした約1,000項目の管理策を要求し、第三者機関による監査が必要です。AWSやGoogle CloudはISMAPを2021〜2022年に取得していますが、独自アーキテクチャを持つ国産クラウドにとって対応工数は大きなものでした。
2. 複数ゾーン体制の物理的整備
要件では「地理的に離れた日本国内の複数の地域に設置」が求められています。さくらインターネットは2025年9月25日、石狩リージョンに第3ゾーンを開設し、大規模案件の受け入れ体制を強化しました(さくらインターネット プレスリリース 2025年9月25日)。石狩と東京の地理的分散加えて、石狩内でも複数ゾーン構成が可能になったことは、可用性要件への大きな前進でした。
3. エンタープライズ向け管理機能の開発
StatelessなIaaSとして展開してきたさくらのクラウドは、ガバメントクラウドが求めるテンプレート強制適用・ゾーン/サービス制限・ログ削除禁止などの「統制機能」を新規開発する必要がありました。これらはAWS Organizations/Google Cloud Organizationsに相当する機能であり、既製品として持たない国産クラウドにとっての主な開発領域でした。
2026年3月27日以降、自治体はさくらのクラウドをガバメントクラウドとして正式に利用できます。自治体情報システム担当者が確認すべき3つのポイントを整理します。
さくらインターネットは2026年3月27日、「令和5年度および令和8年度ガバメントクラウドサービス提供事業者に採択」されたと発表しています(さくらインターネット プレスリリース 2026年3月27日)。令和8年度(2026年度)の採択を得ており、令和7年度末までに移行が求められている自治体標準化システムとも時間軸が合致します。
松本尚デジタル大臣は2026年3月27日の閣議後記者会見で「国外も国内も含めて競争を促すという点では、日本の企業が入っている方がより一層競争が助長され、サービスが良くなる効果がある」と発言しています(朝日新聞 2026年3月27日)。国産クラウドの参入は、ガバメントクラウド全体の競争環境とサービス改善を促す効果が期待されます。
外資4社と比較したときのさくらのクラウドの差別化要素は「完全な国内完結」です。サーバ・ネットワーク・運営会社・データ保管場所がすべて日本国内にあり、米国CLOUD Act等の海外法律によるデータアクセスリスクを回避できます。国産クラウドを選定根拠の一つとしたい場合、この点は稟議資料に明記できる事実ベースの強みです。
2026年4月以降のガバメントクラウド対象サービスは以下の5サービスです。
| クラウドサービス | 提供事業者 | 採択区分 |
|---|---|---|
| Amazon Web Services (AWS) | Amazon Web Services, Inc. | 複数年度 |
| Google Cloud | Google LLC | 複数年度 |
| Microsoft Azure | Microsoft Corporation | 複数年度 |
| Oracle Cloud Infrastructure (OCI) | Oracle Corporation | 複数年度 |
| さくらのクラウド | さくらインターネット株式会社 | 令和5年度・令和8年度(国産初の複数年度) |
出典: デジタル庁 ガバメントクラウド対象クラウドサービスの決定(2026年3月27日)
さくらのクラウドの正式採択は、地方公共団体情報システム標準化における標準準拠システムのガバメントクラウド移行にも影響します。
2025年9月30日時点でガバメントクラウド上で稼働しているシステムは5,237件に達しており(国147件・地方公共団体5,090件)、このうちほぼ全てが外資4社いずれかのクラウド上で動作していました。さくらのクラウドが加わることで、2026年度以降のベンダー選定・パッケージ導入において「国産クラウド上で動作するシステム」の選択肢が広がります。
自治体のシステム担当者が現在進めているベンダー選定プロセスで確認すべき点は2つです。
利用候補パッケージがさくらのクラウドに対応しているか: 標準化対象20業務の主要パッケージベンダーが、さくらのクラウド上での動作検証・認定を取得しているかを確認する。APPLICの準拠登録製品一覧で登録製品を確認できます。
GAO(ガバメントクラウドアシスタントサービス)でさくらのクラウドが選択可能になっているか: デジタル庁のGCASが提供する設定テンプレートにさくらのクラウド向けのものが整備されているかを確認することで、移行工数の概算が立てやすくなります。
はい、2026年3月27日以降、本番環境としての提供が可能です(デジタル庁公表 2026年3月27日)。ただし、実際のシステム移行にあたっては、利用するパッケージベンダーがさくらのクラウド上での動作を保証しているかを個別に確認する必要があります。
デジタル庁のGCASを通じてサービスカタログと見積もりを取得し、コスト・機能・サポート体制・データ主権の4軸で比較します。特に「完全国内完結かどうか」は稟議において説明しやすい差別化ポイントです。GCInsightのクラウド別ベンダー比較ページ(/cloud)では5クラウドの比較データを参照できます。
デジタル庁は四半期ごとに外部向けに進捗を公表し続け、遅延発生時も「全体計画への影響なし」と評価を続けていました。最終的に2025年度末という期限内に全305項目を完了したことは、計画通りの達成です。進捗を透明に開示しながら開発を完遂した点は、むしろ信頼性の根拠として評価できます。
「国産初・令和8年度も採択済みのガバメントクラウド対象サービスである。データの国内完結・国産ベンダーとの日本語サポート体制が確立されている。デジタル庁が305項目の技術要件適合を公式に確認している」という3点が事実ベースの説明の骨格です。
さくらのクラウドを含む5クラウドの最新データは、GCInsightのクラウド別ページ(gcinsight.jp/cloud)で確認できます。コスト比較・稼働状況・自治体ごとの移行進捗についてはGCInsightダッシュボード(gcinsight.jp)をご活用ください。
ガバメントクラウドへの移行状況や、各クラウドサービスのコスト比較についてさらに詳しく知りたい場合は、ガバメントクラウドの基本解説記事もあわせてご確認ください。
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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