
2026年1月末時点でガバメントクラウドへの移行が完了したシステムは全体の38.4%(13,283件)にとどまる。政令市の遅延率が100%に達する一方、町村部では5%未満の遅延率と団体規模で大きな格差が生じている。都道府県別・団体種別の進捗状況と、遅延の主要因を総務省PMOデータから解説する。
2025年度末(2026年3月末)を移行期限としてきたガバメントクラウド(政府共通クラウド基盤)への標準準拠システム移行について、2026年1月末時点の進捗データが明らかになった。
総務省PMOツールの集計によると、対象となる全34,592システムのうち、移行を完了したのは13,283システムで、**完了率は38.4%**にとどまっている(出典: ジチタイワークスWEB 2026年3月)。
さらに深刻なのは、期限内移行が困難と判定された「特定移行支援システム」の規模だ。全システムの25.9%にあたる8,956システムが特定移行支援に該当する見込みとなっており、移行期限の最大5年延長を余儀なくされる団体が相当数にのぼることが示されている。
| 区分 | システム数 | 割合 |
|---|---|---|
| 対象システム総数 | 34,592件 | 100% |
| 移行完了(2026年1月末時点) | 13,283件 | 38.4% |
| 特定移行支援該当見込み | 8,956件 | 25.9% |
| 残存(今後移行予定) | 約12,353件 | 約35.7% |
(出典: 行政情報システム研究所 2025年8月、ジチタイワークスWEB)
この数字が示すのは、2025年度末の「標準化完了」は名実ともに達成できず、国全体として数年にわたる移行継続フェーズに移行しつつあるという現実である。
都道府県別の完了率を理解する前に、まず団体規模別の遅延実態を把握する必要がある。総務省および行政情報システム研究所の調査(2025年4月時点)によると、遅延率は団体の規模・種別によって大きく異なる。
xychart-beta
title "団体規模別 ガバメントクラウド移行遅延率(2025年4月時点)"
x-axis ["政令市", "中核市", "一般市", "町村", "都道府県"]
y-axis "遅延率(%)" 0 --> 100
bar [100, 29, 11, 5, 64]
(注: 都道府県の64%は児童扶養手当システムにおける遅延率。全業務の平均ではない)
最も深刻なのは政令指定都市だ。20政令市のすべてが、2025年度末の期限内に全システムの移行を完了することができなかった。政令市は大都市圏に位置し人口規模が大きいため、扱う住民データ量・業務の複雑性・カスタマイズ数ともに圧倒的に多く、標準化された仕様への移行に際してシステム改修工数が膨大になる。
また、政令市の多くは「目黒区モデル」とは異なり、複数のベンダーが業務別に担当する分散型システム構成を採用しており、標準化後の統合・テスト工程が長期化しやすい特性を持つ。
中核市では約29%が遅延した。中核市は政令市ほど大規模ではないが、独自開発システムを多数保有しているケースが多く、標準仕様に合わせた業務フローの見直し(BPR)が負担になっている。
一方、町村の遅延率は5%未満と低い。これは町村がもともとパッケージシステムへの依存度が高く、カスタマイズが少ないため、標準仕様への適合が比較的容易だったためとみられる。また、共同利用方式(複数の自治体が1つのシステムを共同で利用する形態)を採用している町村では、都道府県やSIerが一括対応するため移行負荷が分散された。
総務省が公表しているダッシュボード(PowerBI)では、都道府県別の標準化進捗が可視化されている。ただし、個別の都道府県別完了率はPMOツール上での確認となるため、ここでは地域的な傾向と公表済みデータをもとに解説する。
flowchart TD
A["全国1,788団体"] --> B["期限内完了予定\n約853団体(47.7%)"]
A --> C["特定移行支援対象\n935団体(52.3%)"]
C --> D["最大5年延長\n(2031年3月目標)"]
B --> E["2026年3月末\n移行完了"]
(出典: ジチタイワークスWEB 2026年3月)
2025年度末の期限内移行が困難とされた都道府県として、埼玉県、大阪府、鳥取県、愛媛県、長崎県、大分県の1府5県が報告されている(出典: 行政情報システム研究所)。
また政令指定都市については、20市全てが期限内の完全移行を断念した形となった。大阪市・名古屋市・横浜市など大都市部に政令市が集中することから、首都圏・近畿圏・中部圏は全体的な完了率が低く見える傾向がある。
一方、完了率が比較的高いとされる地域には共通する特徴がある。
なぜこれほど多くの自治体・システムが期限内移行を果たせなかったのか。デジタル庁の2026年3月公表資料「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業報告書」(出典: デジタル庁 2026年3月)では、コスト増嵩の「構造的な要因」と「機能強化要因」が確認されている。
移行前後でシステム運用経費が増加するケースが相次いでいる。中核市市長会の調査では、移行後の運用経費の平均倍率が2.3倍に達し、5割以上の自治体で2倍以上の増加が見込まれているとされる(出典: デジタル庁「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策について」2025年6月)。
当初「3割削減」と説明されていたコストが実態として増加したことで、「議会に説明できない」という声が多くの自治体で上がっている。
ガバメントクラウドに接続するためのネットワーク(専用線・都道府県WANなど)の整備に想定以上の期間を要するケースが多発した。デジタル庁の検証によると、回線開通工事の着手から完了まで最短40日、最長90日以上かかる事例が確認されており、システム移行の前段階であるネットワーク準備だけで数か月を要するケースがある。
地方公共団体情報システムの標準化に関する標準仕様書は2021年の制定以降、5年間で5回以上の改版が行われた。ベンダーは改版のたびにシステムを更新する必要があり、安定した開発・移行作業を進めることが困難な状況が続いた。GCInsightが分析した別記事(標準仕様書が5年間で5回以上改版された理由)でも詳述している。
2025年12月の「地方公共団体情報システム標準化基本方針」改定では、期限内移行が困難なシステムについて「概ね5年以内」(すなわち2031年3月を目標)に移行を完了できるよう、個別に期限を設定する仕組みが導入された。
これにより、全国1,788団体のうち935団体(52.3%)が「特定移行支援」対象として、2031年3月まで移行期限が延長される見込みだ。
特定移行支援対象の主な分類は以下の通りである。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| 移行困難システム | 標準化対応製品が未存在のシステム(戸籍・国保など一部) |
| カスタマイズ過多 | 独自改修が多く標準仕様への適合に長期間必要 |
| ベンダー対応遅延 | パッケージベンダーの標準化対応が完了していないケース |
| 予算不足 | 運用コスト増嵩に伴い移行費用の確保が困難 |
都道府県別の完了率データを見る際に重要なのは、「完了率が高い地域=移行が成功している」とは必ずしも言えない点だ。コスト増嵩を抱えながらも強引に移行を完了した団体も存在するからである。
担当者として今確認すべきことを整理する。
1. 自団体の「特定移行支援」該当状況の確認
特定移行支援対象かどうかで、今後の計画が大きく変わる。デジタル庁のGCAS(ガバメントクラウド申請・利用システム)で申請状況を確認し、該当する場合は2031年3月を目標とした新たなスケジュールを策定する必要がある。
2. コスト増嵩への対応策の検討
移行後に運用コストが増加する団体には、共同利用方式への切り替えやFinOps(クラウドコスト最適化)手法の導入が有効だ。GCInsightではコスト効果データや共同利用方式の解説を公開している。
3. 都道府県からの支援制度の活用
都道府県の多くが、市町村向けの「伴走型支援」「ITコンサル派遣」「研修会」などの支援メニューを用意している。デジタル庁の検証(令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業)によれば、都道府県がITコンサルと連携して個別相談・進捗管理を実施している地域では移行速度が改善している。
Q: 都道府県別の完了率はどこで確認できますか?
A: 総務省が提供するダッシュボード(PowerBI形式)で都道府県別・業務別の進捗が確認できます。総務省 地方自治体システム標準化に関するダッシュボードからアクセスできます。また、GCInsight(gcinsight.jp)では自治体別の移行進捗データをダッシュボード形式で可視化しており、都道府県・市区町村別の状況を一元確認できます。
Q: うちの自治体は特定移行支援対象になりますか?
A: 特定移行支援の対象は、デジタル庁への届出に基づき個別に判定されます。対象になる主なケースは「2025年度末までの移行完了が技術的・予算的に困難」「ベンダーの標準化対応が未完了」などです。GCASを通じた申請手続きが必要です。詳細は特定移行支援の解説記事を参照してください。
Q: 政令市はなぜ全市が遅延したのですか?
A: 政令市は人口規模が大きく扱うデータ量が膨大なため、標準仕様への適合に際して改修・テスト工数が他の団体と比較にならないほど多くなります。また、複数のベンダーが業務別に担当する分散型システム構成が一般的で、業務をまたいだ統合テストに時間がかかることも遅延の主因です。政令市の状況は遅延リスク一覧でも確認できます。
Q: 移行を完了した自治体でもコストが増えているのはなぜですか?
A: ガバメントクラウドはAWSやGCPなどの従量課金型クラウドを使用するため、データ通信量・ストレージ使用量・APIコール数によってコストが変動します。加えて、ガバメントクラウドへの接続ネットワーク費用(専用線・都道府県WAN)、パッケージソフトウェアのライセンス料が加算されるため、移行前のオンプレミス運用よりもコストが高くなるケースがあります。詳しくはコスト構造の解説記事をご参照ください。
ガバメントクラウドの都道府県別・団体別移行状況は、団体の規模・システムの複雑性・ベンダー対応力によって大きく差が生じている。2026年1月末時点の全体完了率38.4%という数字は、政府が当初目標としていた「2025年度末の標準化完了」が事実上達成されなかったことを示している。
一方で、2031年3月を新たな目標とする特定移行支援制度が整備され、引き続き移行支援が継続される見込みだ。都道府県単位での伴走支援体制や共同利用方式の活用が、今後の移行速度向上のカギを握る。
自団体のガバメントクラウド移行進捗を詳しく確認したい自治体担当者には、GCInsight(gcinsight.jp)のダッシュボードをぜひ活用してほしい。全国1,788団体の移行進捗データを都道府県別・業務別に可視化しており、近隣自治体との比較や移行遅延リスクの早期発見に役立てることができる。
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