
2026年1月末時点で移行完了率38.4%(13,283件/34,592件)、935団体が特定移行支援対象に。GCASガイドが示す接続要件と全国1,741自治体のデータから、業務別・団体規模別の移行格差と今後の対応策を解説します。
2021年9月に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」は、全国1,788の地方公共団体に対し、住民基本台帳・税・社会保障など20業務の基幹業務システムを2025年度末(2026年3月末)までに標準準拠システムへ移行するよう義務付けました。
移行先となるガバメントクラウドでの稼働にあたっては、GCASガイド(https://guide.gcas.cloud.go.jp/)が示す接続要件への対応が実務上の前提条件となります。にもかかわらず、この期限に間に合わなかった自治体は半数を超えました。
デジタル庁が2026年2月27日に公表したデータによると、対象3万4,592システムのうち 935団体(52.3%) が2026年度以降も移行が完了しない「特定移行支援システム」を抱えています(2025年12月末時点)。標準化法が施行されてから5年近くが経過した段階でこの数字が出た背景には、GCASガイドが定める接続要件への対応の難しさが大きく関係しています(出典: デジタル庁 標準化推進状況 2026年2月27日公表)。
本記事では、GCASガイドが自治体に求める接続要件の概要を整理しながら、GCInsightのデータを用いて全国の移行進捗の現状を分析します。
GCASガイドはガバメントクラウドを安全に利用するための技術ドキュメントの総合案内サイトです。ここでは、標準準拠システムをガバメントクラウド上で稼働させるための接続方式が体系化されています。
自治体がガバメントクラウドに接続する方法は、主に以下の2系統に整理されています(出典: デジタル庁「地方公共団体標準準拠システムのガバメントクラウドの利用について【第3.0版】」2025年3月)。
| 接続方式 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| LGCS(第五次LGWAN経由) | J-LISが提供するLGWAN経由の接続サービス | 各自治体が独自に回線調達不要。論理的に回線が分離される |
| GCAS Connect(専用線) | デジタル庁が運営・維持管理するネットワークサービス | マルチクラウド構成(AWS+OCIなど複数CSP利用)時に必要 |
この接続要件への対応が、実際の移行スケジュールの遅延に直結しているケースが多く見られます。デジタル庁が2024年9月に公開した早期移行団体の検証報告書では、回線のセットアップに要する作業期間として 最大90日(設備検討から疎通確認まで) を要した団体が複数存在することが記録されています。
移行の3〜6ヶ月前からGCASガイドのヘルプデスクに問い合わせを開始し、回線事業者との調整を早期に進めることが推奨されているのはこのためです(出典: デジタル庁 早期移行団体検証事業報告書)。
flowchart TD
A["標準準拠システム移行義務\n(2026年3月末が原則期限)"] --> B["ガバメントクラウド接続が必要"]
B --> C["LGCS\nLGWAN経由接続"]
B --> D["GCAS Connect\n専用線接続"]
C --> E["CSP上で稼働開始"]
D --> E
E --> F["GCASガイドに基づく\n運用・セキュリティ管理"]
GCInsightのデータでは、2026年1月末時点における移行の全体像が以下のように確認できます。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 対象システム総数 | 3万4,592システム |
| 移行完了システム数 | 1万3,283システム(38.4%) |
| 移行完了団体数(1件以上) | 1,188団体(66.4%) |
| 特定移行支援システム数(遅延) | 8,956システム(25.9%) |
| 特定移行支援対象団体数 | 935団体(52.3%) |
出典: デジタル庁「特定移行支援システムの該当見込み(令和7年12月末時点)」2026年2月27日公表 / 総務省 標準化PMOツール(2026年1月末時点)
「移行完了団体数が66.4%」という数字と「移行完了システム率が38.4%」という数字が乖離している点は注目すべきです。これは、システム数が多い大規模自治体ほど完了率が低い傾向を示しています。特に指定都市(政令市)では移行作業の完了率が60%と、町村の77.6%を大幅に下回っていることが総務省の標準化PMOツールデータから明らかになっています(出典: 総務省 地方公共団体情報システムの標準化にかかる取組状況 2025年12月末時点)。
xychart-beta
title "団体規模別 標準準拠システム移行作業完了率(2025年12月末時点)"
x-axis ["指定都市", "中核市", "市(中核市以外)", "特別区", "町村"]
y-axis "完了率(%)" 0 --> 100
bar [60.0, 75.3, 77.0, 80.0, 77.6]
出典: 総務省「地方公共団体情報システムの標準化にかかる取組状況」2025年12月末時点
特定移行支援システムが増加した主因についてデジタル庁は「移行作業が本格化する中で、移行作業やその直後の運用に想定以上のSEリソースが必要であることが判明したこと等により、事業者による移行スケジュールの大幅な見直しが行われた」と分析しています(出典: デジタル庁 2026年2月27日公表資料)。
遅延要因の分類を見ると、その実態が明確になります。
| 遅延分類 | システム数 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 事由1: メインフレーム | 44システム | データ移行に他と比べ長期間を要する |
| 事由2: 個別開発システム | 189システム | パッケージ外の独自開発システム |
| 事由3: 代替事業者未定 | 184システム | 現行事業者が撤退、後継調達中 |
| 事由4: SEリソース不足 | 8,539システム | 事業者のリソースひっ迫による遅延 |
**遅延の95.3%は「事由4: SEリソース不足」**によるものです。つまり、個々の自治体の準備不足よりも、ITベンダー側の開発・移行リソースの枯渇がボトルネックになっています。これはGCASガイドへの習熟度の問題でもあります。ガバメントクラウドへの接続設計・申請・ネットワーク構築には専門的な知識が必要であり、経験豊富なSEが不足している事業者では対応が後ろ倒しになりやすい構造があります。
GCInsightのデータでは、移行遅延のリスクが高い都道府県・市区町村の一覧を確認できます。都道府県別の特定移行支援団体数については GCInsightの都道府県別進捗ページ(/progress) で随時更新しています。
GCInsightのデータによると、20業務のうち移行完了率に大きな格差が生じています。
住民基本台帳(住民票関連)や戸籍情報といった日常的な住民サービスに直結する業務は比較的移行が進んでいる一方、制度改正への対応が複雑な国民年金・固定資産税・介護保険などは移行完了率が低い傾向が見られます。
特に固定資産税については、総務省が「標準化法に基づく市町村の固定資産税システム改修について、令和7年度(2025年度)までの達成を目指す」としていたにもかかわらず、多くの自治体で2026年度以降に移行が持ち越されています(出典: 内閣府 規制改革推進会議 参考資料)。
業務別の移行完了状況(最新データ)は GCInsightの業務別進捗ページ(/businesses) でご確認ください。
特定移行支援システムを抱える935団体は、2026年度以降も移行作業を継続しながら、GCASガイドの要件への対応を並行して進める必要があります。具体的に浮上している課題を以下に整理します。
1. ネットワーク接続の調達・設計のやり直し
2025年度末を前提に計画していた回線調達スケジュールが崩れ、再度の見直しが必要な団体が存在します。特に回線のセットアップには40〜90日の作業期間が必要であり、移行作業の再スケジューリングと同時並行で進める必要があります。
2. 費用負担の増加
移行支援期間(2023年4月〜2026年3月)内に想定していた補助金の利用条件が変わる可能性があります。2026年度以降のガバメントクラウド利用料については、デジタル庁が一定期間補助を継続する方針を示していますが(出典: 日経クロステック 報道)、接続回線費用など全額補助の対象外となる費用について自治体の財政計画の修正が必要なケースがあります。
3. セキュリティ管理体制の整備
GCASガイドでは「予防的統制・発見的統制・定量的計測」の3点がセキュリティ管理の柱とされています。移行後の運用フェーズに向けて、庁内のセキュリティ担当体制とベンダーとの役割分担を事前に明確にしておくことが求められます。
4. 「ネットワーク運用管理補助者」の確保
デジタル庁が2026年3月に公開した「ガバメントクラウド早期移行団体検証事業2024年度成果物」では、「ネットワーク運用管理補助者の担い手が見つからない市町村」への都道府県による伴走支援の重要性が強調されています(出典: デジタル庁 検証成果物)。
全国1,741自治体のガバメントクラウド移行進捗および標準準拠システムへの対応状況は、GCInsightのダッシュボードで無料で確認できます。
都道府県別の移行進捗: 各都道府県ごとの特定移行支援団体数・移行完了状況を一覧で比較できます。 GCInsightで都道府県別進捗を確認する
業務別の移行進捗: 20業務ごとの全国完了率・遅延状況をグラフで確認できます。どの業務が全国的に遅れているかが一目でわかります。 GCInsightで業務別進捗を確認する
GCInsightのデータは総務省・デジタル庁の公開データを基に定期更新しています。自団体の移行状況と全国平均との比較、他の自治体の取組状況の把握にご活用ください。
Q1. 特定移行支援システムに指定されると、どんな影響がありますか?
A. デジタル庁・総務省・制度所管省庁が個別に移行を支援し、概ね5年以内(2030年度末まで)を目安に移行完了の期限が設定されます。ただし、ガバメントクラウド利用料の補助条件や標準化基準への適合義務は継続します。業務によっては主務省令で個別の移行完了期限が定められることがあります(出典: 地方公共団体情報システム標準化基本方針 2024年12月24日閣議決定)。
Q2. GCASガイドはどこで参照できますか?最新のConnect利用ガイドは?
A. GCASガイドの公式サイト(https://guide.gcas.cloud.go.jp/)から誰でもアクセスできます。「GCAS Connect利用ガイド」は2026年1月28日に公開されており、接続申請の手順・設計要件が体系的に整理されています。GCASガイドの詳細解説は「GCASガイドとは?自治体担当者が知っておくべき6つのポイント」をご参照ください。
Q3. 移行期限に間に合わなかった自治体は、2026年度以降どのように対応すればよいですか?
A. まずデジタル庁の「特定移行支援」の手続きに沿って移行計画を再提出し、支援を受ける体制を整えることが優先です。並行してGCASガイドの接続要件を確認し、ネットワーク接続の調達・設計を早期に開始することが重要です。GCInsightでは自団体と類似規模の自治体の対応事例を確認できます(https://gcinsight.jp/)。
2026年3月末という「原則期限」を過ぎた今も、約1,000団体近くが移行を完了していない現実は、ガバメントクラウドへの移行が単なる「システム更改」ではなく、ネットワーク接続・セキュリティ管理・ベンダー調達・費用設計を包括する高度な行政改革であることを示しています。
GCASガイドはその実装の拠り所であり、今後の移行継続においても最重要の参照資料であり続けます。GCInsightでは、全国1,741自治体の最新の移行進捗データを継続的に更新・公開していきます。自団体の状況確認・政策立案の参考資料として、ぜひご活用ください。
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