
2026年3月にさくらのクラウドが正式採択され、ガバメントクラウドの採択ベンダーは5社体制となりました。AWS・Google Cloud・Azure・OCI・さくらの特徴を比較し、自治体担当者が移行ベンダーを選定する際の5つの判断軸と実務チェックリストを解説します。
2026年3月27日、デジタル庁はさくらインターネット株式会社の「さくらのクラウド」が305項目すべての技術要件を満たしたことを確認し、令和8年度(2026年度)のガバメントクラウド対象クラウドサービスとして正式採択しました(出典: デジタル庁 令和8年度募集分ガバメントクラウド対象クラウドサービス、2026年3月27日)。
これにより、ガバメントクラウドとして利用できるクラウドサービスは以下の5社・5サービスとなりました。
| クラウドサービス | 提供事業者 | 国籍 | 採択時期 |
|---|---|---|---|
| Amazon Web Services(AWS) | Amazon Web Services, Inc. | 米国 | 令和4年度(初回) |
| Google Cloud | グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 | 米国 | 令和4年度(初回) |
| Microsoft Azure | 日本マイクロソフト株式会社 | 米国 | 令和4年度(初回) |
| Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | 日本オラクル株式会社 | 米国 | 令和4年度(初回) |
| さくらのクラウド | さくらインターネット株式会社 | 日本 | 令和5年度採択・令和8年度正式 |
これまでAWS・Google Cloud・Azure・OCIの外資4社が独占していたガバメントクラウド市場に、国産クラウドが初めて加わったことで、自治体担当者のベンダー選定の幅は大きく広がりました。一方、「どの事業者を通じてガバメントクラウド上の標準準拠システムに移行すべきか」という判断はより複雑になっています。
本記事では、自治体情報システム担当者が標準準拠システムへの移行ベンダーを選定する際の5つの判断軸と、各クラウドの特徴を整理します。
ガバメントクラウドのベンダー選定を考える前に、まず用語の整理が必要です。自治体の担当者が実際に選定する相手は2種類あります。
flowchart TD
A["自治体(情報システム担当)"] --> B["パッケージベンダー\n(住民基本台帳・税・福祉等)"]
A --> C["クラウドベンダー\n(AWS/GCP/Azure/OCI/さくら)"]
B --> D["標準準拠システム\n(ガバメントクラウド上で稼働)"]
C --> D
パッケージベンダー(富士通・NEC・日立・TKC・ジャガー・SASシステムズ等)は、標準仕様書に準拠したアプリケーションを開発し、ガバメントクラウド上で提供します。自治体は「どのパッケージを使うか」を主体的に決定します。
クラウドベンダー(AWS・Google Cloud等)は、パッケージが稼働するインフラ基盤です。多くの場合、パッケージベンダーがどのクラウド上で提供するかを決めており、自治体がクラウドを直接指定できる場合とそうでない場合があります。
つまり、多くの自治体が実際に選定するのは「パッケージベンダー」であり、その上でどのクラウドが使われるかは、選んだパッケージが対応するクラウドに依存します。
ただし、共同利用方式(複数自治体が同一システムを共同調達する形式)を採る場合や、独自に直接クラウドと契約するケースでは、クラウドベンダーの選定も自治体の判断事項になります。
デジタル庁のGCASガイド(Government Cloud Assistance System)では、各クラウドに対応した技術ガイドを公開しています(出典: デジタル庁GCASガイド、https://guide.gcas.cloud.go.jp/)。
各クラウドの特徴を自治体目線で整理すると以下の通りです。
| クラウド | 国内データセンター | 標準準拠システム対応状況 | 自治体向け強み |
|---|---|---|---|
| AWS | 東京・大阪 | 対応パッケージ最多 | 最大シェア・ノウハウ豊富 |
| Google Cloud | 東京・大阪 | 主要パッケージ対応済み | データ分析・AI連携 |
| Microsoft Azure | 東京・大阪・埼玉 | 主要パッケージ対応済み | Office365連携・ハイブリッド |
| OCI | 東京・大阪 | OCI専用パッケージあり | コスト競争力・グローバル均一価格 |
| さくらのクラウド | 北海道・大阪 | 対応パッケージ整備中 | 国産・データ主権 |
ガバメントクラウドとして最も多くのパッケージベンダーが対応しているのがAWSです。先行して移行した自治体の事例が豊富で、GCASガイドやデジタル庁の移行支援資料の多くもAWSを前提に記述されています。一方、日経XTECHの調査では、14市町村の合算でインフラコストが移行前比4.5倍に増加した事例も報告されており、コスト面では慎重な評価が必要です(出典: 日経XTECH「ガバクラ移行で運用コスト2〜4倍に悲鳴」)。
Oracle Cloud Infrastructureは従量課金制(Pay As You Go)を基本としつつ、グローバル全リージョンで価格が統一されているという特徴を持ち、一定のワークロードでは他クラウドに比べてコスト予測がしやすく、競争力が高いとされています。TKC・ジャガー情報システム等がOCIを基盤として標準準拠システムを提供しており、特に小規模自治体における共同利用方式でのコスト削減事例が報告されています。
2026年3月に正式採択されたさくらのクラウドは、国内唯一の国産クラウドです。松本尚デジタル大臣(当時)は「国内外の競争を促す効果がある」とコメントしており、データ主権・サプライチェーンリスクの観点から注目が集まっています(出典: 朝日新聞「ガバメントクラウド、日本企業で初の正式採用 さくらインターネット」)。現時点では対応するパッケージベンダーの数は外資4社に比べて少ないため、利用可能なパッケージの選択肢を事前に確認することが重要です。
最初に確認すべきは「現在利用しているパッケージベンダーが、どのクラウドを標準準拠システムの提供基盤として選んでいるか」です。パッケージベンダーによっては特定クラウドにしか対応していない場合があり、その場合は事実上クラウドの選択肢が限られます。
APPLICが公開している準拠登録製品一覧(会員向け)では、標準仕様書に準拠したパッケージ製品の登録状況を確認できます。また、GCInsightのパッケージ一覧では、業務システムごとの主要ベンダーと対応クラウドを整理しています。
移行方式によってコスト構造が大きく変わります。
人口規模が小さい自治体(概ね人口5万人以下)では、共同利用方式を優先的に検討することが、コスト面でのリスクを下げる有効な手段です。
ガバメントクラウドへの移行後の運用コストは、移行前比で「2〜4倍」になる事例が複数報告されています。2025年4月、デジタル庁・内閣官房は「ガバメントクラウドを利用した標準準拠システムへの移行後の運用経費に係る見積チェックリスト」を発出しており、ベンダーからの見積が妥当かどうかを確認する観点が整理されています(出典: 自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後のシステム運用経費について、2025年4月23日)。
試算は以下の3パターンで比較することを推奨します。
ガバメントクラウドは公共インフラとしての性格上、住民サービスの継続性が求められます。選定候補のパッケージベンダーについて以下を確認します。
デジタル庁が整備したGCASガイド(https://guide.gcas.cloud.go.jp/)では、各クラウドの技術ガイドと運用管理・利用規程が公開されており、SLA要件の確認にも役立ちます。
標準準拠システムへの移行は「一度選んだら終わり」ではありません。デジタル庁の政策文書では「各自治体が各社の製品を自由に選択・入れ替え可能となり、競争環境が確保される」ことが標準化の目的の一つとして明記されています(出典: 総務省デジタル基盤推進室「自治体情報システムの標準化・共通化」)。
契約段階で以下を明確にすることで、将来の乗り換えコストを最小化できます。
自治体の規模・状況に応じたベンダー選定の判断フローを示します。
flowchart TD
A["自治体の移行検討開始"] --> B{"人口規模"}
B -- "〜5万人" --> C["共同利用方式を優先検討"]
B -- "5万人〜" --> D["単独移行方式も候補"]
C --> E["都道府県・広域連携の共同利用枠組みを確認"]
D --> F["パッケージベンダーにRFI送付"]
E --> G["対応クラウドと費用按分を確認"]
F --> H["3パターンのコスト試算を依頼"]
G --> I["見積チェックリストで精査"]
H --> I
I --> J["ベンダー選定・契約"]
Q1. ガバメントクラウドのベンダーは自治体が自由に選べますか?
原則として、ガバメントクラウドのクラウドベンダー(AWS・OCI等)を自治体が直接指定することはありません。自治体が選ぶのは「標準準拠システムを提供するパッケージベンダー」であり、そのパッケージがどのクラウド上で稼働するかはパッケージベンダーが決定します。ただし、共同利用方式で自治体グループが主体的に調達する場合は、クラウドの種別を要件として明示できる場合があります。
Q2. さくらのクラウドに対応した標準準拠システムはすでに使えますか?
2026年3月時点で、さくらのクラウドは正式採択されたばかりです。対応するパッケージベンダーの開発・認定プロセスが進行中であり、利用可能なシステムの数は外資4社に比べて限定的です。APPLICの準拠登録製品一覧(会員向け)と並行して、パッケージベンダー各社への個別確認が必要です。
Q3. 移行後にコストが増えた場合、国の補助はありますか?
デジタル庁・総務省は2025〜2026年度にかけて、移行後の運用コスト増への総合的な対策を検討しています。2025年6月には「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策について」が発出されており、国費補助・交付税措置・FinOpsガイド整備等が対策として列挙されています(出典: デジタル庁、2025年6月13日)。最新の補助スキームは、GCInsightのコスト効果ページでも整理しています。
ガバメントクラウドのベンダー選定は「クラウドを選ぶ」前に「パッケージを選ぶ」という順序が基本です。
自治体の標準準拠システム移行状況・ベンダー別の採用実績データは、GCInsight(gcinsight.jp)のダッシュボード・クラウド別ページで確認できます。移行判断の材料としてご活用ください。
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