
ガバメントクラウド移行の「完了率81.6%」は実際の移行完了率ではない。総務省Excelの40ステップを全公開し、なぜ予算要求しただけで数字が上がるのかを解説。実際の移行完了は65自治体(3.7%)。
ガバメントクラウドの移行進捗を調べると、2つの数字に出会います。
さらに当編集部のダッシュボードでは、全20業務の移行を完了した自治体は65団体——全1,741団体のわずか3.7% という数字を示しています。
81.6%と3.7%。同じ「ガバメントクラウド移行」の話なのに、22倍の開きがあります。この差はどこから来るのか。 今回はその構造を、一次資料を使って丸裸にします。
本記事で使用するデータの出典を先に明示します。すべて誰でもダウンロード・閲覧できる公開資料です。
| 資料名 | 発行元 | 公開場所 | 本記事での用途 |
|---|---|---|---|
| 市区町村の標準化・共通化に係る手順書の各ステップの進捗状況(令和8年1月時点) | 総務省 | 総務省 自治体DX推進 | 40ステップの定義、81.6%の算出根拠 |
| 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化(進捗管理) | 総務省 | 同上 | 1,741自治体×20業務の個別進捗データ |
| 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律の施行 | デジタル庁 | デジタル庁 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化 | 特定移行支援システムの認定リスト(935団体) |
| 標準化・共通化に係る手順書【第2.0版】 | 総務省 | 総務省 同ページ | 40ステップの正式な定義・説明 |
81.6%の根拠は、上記の総務省Excelです。
このExcelの「業務別ステップ別進捗一覧」シートには、全1,741自治体×20業務について、40個のステップごとの進捗が記録されています。各ステップは以下の4状態のいずれかです。
「完了済み」と「対象外」を合算した割合が、その業務の「完了率」になります。
では、40ステップとは具体的に何なのか。 以下は総務省「標準化・共通化に係る手順書【第2.0版】」に基づく正式名称を、そのまま掲載したものです。
| # | ステップID | 総務省の正式名称 | 平たく言うと |
|---|---|---|---|
| 1 | ①-1 | 推進体制案の作成 | 誰がやるか決めた |
| 2 | ①-2 | 関連部局との調整・担当者名簿の作成 | 関係者の名簿を作った |
| 3 | ①-3 | 首長等への報告 | 市長・町長に報告した |
| 4 | ②-1 | 現行システム環境の基礎調査(基礎情報・契約範囲等) | 今のシステムを調べた |
| 5 | ②-2 | 連携一覧の調査・作成 | 他のシステムとのつながりを洗い出した |
| 6 | ②-3 | 移行に係る現行システムベンダとの打合せ・役割の認識合わせ | 今のベンダーと話をした |
| 7 | ②-4 | 概要調査結果の取りまとめ | 調べた結果をまとめた |
| 8 | ③-1 | 標準化対象範囲の確認(標準仕様書と現行システムの差異洗い出し) | 「今」と「標準」のギャップを把握した |
| 9 | ③-2 | Fit&Gap分析による課題の洗い出し | 業務のやり方を変える必要がある箇所を特定した |
| 10 | ④-1 | 移行方針や調達範囲・単位の検討(周辺機器・外部委託含む) | 何をどう調達するか方針を決めた |
| 11 | ④-2 | 調達方式の検討(プロポーザル方式 or 入札方式等) | プロポか入札か決めた |
| 12 | ④-3 | 調達スケジュールの検討(RFI、RFP、予算計上、移行時期等) | いつまでに何をやるかスケジュールを引いた |
| 13 | ④-4 | 移行にあたっての課題と対策の整理 | 問題点と対策をリストにした |
| 14 | ⑤-1 | RFI資料の作成 | ベンダーに「こういうシステムありますか?」と聞く書類を作った |
| 15 | ⑤-2 | 標準仕様書のうち「実装してもしなくても良い機能」に関する方針決定 | 必要な機能と不要な機能を仕分けた |
| 16 | ⑤-3 | 標準準拠システム以外の情報システムに関するRFI資料の作成 | 標準化対象外のシステムについても情報を集めた |
| 17 | ⑥-1 | RFI資料に関するベンダからの質問への回答 | ベンダーからの質問に答えた |
| 18 | ⑥-2 | ベンダからのRFI回答受領 | ベンダーから回答をもらった |
| 19 | ⑦-1 | RFI結果の分析 | もらった回答を比較検討した |
| 20 | ⑦-2 | 移行計画の詳細化・変更 | 情報を踏まえて計画を練り直した |
ここまでで20ステップ、ちょうど半分。 しかし、システムには一切手をつけていません。ベンダーを決めてすらいません。「調べて、聞いて、計画を立てた」——それだけです。
| # | ステップID | 総務省の正式名称 | 平たく言うと |
|---|---|---|---|
| 21 | ⑧-1 | 予算根拠資料の作成 | 「いくらかかるか」の資料を作った |
| 22 | ⑧-2 | 予算要求・財政部局等との調整 | 財政課に「この予算をください」と交渉した |
| 23 | ⑨-1 | RFP資料の作成 | ベンダーへの正式な提案依頼書を書いた |
| 24 | ⑨-2 | RFPに関するベンダからの質問への回答 | ベンダーからの質問に答えた |
| 25 | ⑨-3 | ベンダからのRFP回答受領 | ベンダーから提案書をもらった |
| 26 | ⑩-1 | ベンダ評価の実施 | 提案を点数で比較した |
| 27 | ⑩-2 | ベンダの選定・決定 | 発注先を決めた |
| 28 | ⑪-1 | ベンダとの契約協議の実施 | 契約内容を詰めた |
| 29 | ⑪-2 | システム移行に係る詳細スケジュールの確定 | 「何月何日にデータを移す」レベルの日程を決めた |
| 30 | ⑫-1 | 特定個人情報保護評価(PIA)の実施 | マイナンバー等の個人情報への影響を評価した |
30ステップ終了時点で、ベンダーが決まり契約も結んだ。ここまでで全体の75%。でもまだ、旧システムのデータは1行も新システムに移していません。
| # | ステップID | 総務省の正式名称 | 平たく言うと |
|---|---|---|---|
| 31 | ⑬-1 | システム移行時の設定(運用方法の検討・確定、機能確認等) | 新システムの設定を決めた |
| 32 | ⑭-1 | データクレンジングに関するベンダとの調整 | データの変換ルールをベンダーと詰めた |
| 33 | ⑭-2 | データクレンジングの実施 | 旧システムのデータを新形式に整備した |
| 34 | ⑭-3 | 最終データ移行の実施・結果確認 | データを新システムに移し、結果を確認した |
| 35 | ⑮-1 | テストの実施 | 新システムが正しく動くか検証した |
| 36 | ⑮-2 | 研修の実施 | 窓口職員に新しい操作方法を教えた |
| 37 | ⑯-1 | 既存環境の設定変更に向けた調整(必要機器の調達等) | ネットワーク機器やPCを手配した |
| 38 | ⑯-2 | 既存環境の設定変更(標準準拠システムと庁内ネットワーク接続の設計、構築等) | ガバクラと庁内ネットワークを接続した |
| 39 | ⑰-1 | 条例・規則の改正 | システム変更に伴う条例改正の手続きをした |
| 40 | ⑱-1 | 運用開始ステータス | 新システムで住民サービスを開始した |
「ガバメントクラウドに移行しました」と言えるのは、ステップ40が「完了済み」になった時点だけです。
並べると構造が見えてきます。
| フェーズ | ステップ数 | やっていること | ガバクラで動いているか |
|---|---|---|---|
| 体制・調査(①〜②) | 7 | 人を集めて調べた | まだ |
| 計画・分析(③〜⑦) | 13 | 分析して計画を立てた | まだ |
| 予算・調達・契約(⑧〜⑫) | 10 | お金を確保してベンダーを決めた | まだ |
| 実作業・テスト(⑬〜⑰) | 9 | データを移してテストした | まだ |
| 運用開始(⑱) | 1 | 新システムで業務を開始 | ここで初めてYes |
40ステップ中、ガバクラ上でシステムが稼働している状態を意味するのは最後の1個だけ。残り39個はすべて「移行するための準備」です。
では81.6%はどう計算されるのか。総務省Excelの構造に忠実に説明します。
ステップ1:業務ごとの完了率を出す
各自治体の各業務(住民記録、個人住民税、国民健康保険…全20業務)について、40ステップ中「完了済み」または「対象外」のステップ数を数え、40で割ります。
例:A市の住民記録 → 40ステップ中33個が「完了済み」or「対象外」 → 33÷40 = 82.5%
ステップ2:自治体ごとの完了率を出す
その自治体の20業務の完了率を平均します。
例:A市 → 住民記録82.5%、個人住民税78.0%、国保85.0%…(20業務平均)→ 81.0%
ステップ3:全国平均を出す
1,741自治体の完了率を平均します。
例:A市81.0%、B町92.5%、C村65.0%…(1,741自治体の平均)→ 81.6%
つまり81.6%は**「平均の平均」**です。「1,741自治体の準備作業がどこまで進んだかの全国平均」であって、「81.6%の自治体がガバクラに移行した」という意味ではありません。
もう少し具体的にイメージしてみましょう。
仮に、ある町の住民記録システムの進捗がこうだったとします。
| フェーズ | ステップ数 | 完了 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 体制・調査(①〜②) | 7 | 7 | 全部終わった |
| 計画・RFI(③〜⑦) | 13 | 13 | 全部終わった |
| 予算要求(⑧) | 2 | 2 | 財政課の承認が出た |
| 調達・契約(⑨〜⑫) | 8 | 0 | まだRFPも出していない |
| 実作業(⑬〜⑰) | 9 | 0 | 手付かず |
| 運用開始(⑱) | 1 | 0 | 当然まだ |
| 合計 | 40 | 22 | 完了率 55.0% |
予算要求が通っただけで完了率は55%。ここからRFPを出してベンダーを決めて契約すれば75%。ガバクラでは1行のデータも動いていないのに、数字上は「4分の3が完了」です。
「予算要求しただけで完了率に含まれる」——これは事実です。 ステップ⑧-1(予算根拠資料の作成)と⑧-2(予算要求・財政部局との調整)が「完了済み」になれば、40分の2(5%分)が加算されます。
ガバメントクラウド移行には、実は3つの異なる「完了率」が流通しています。同じ「完了率」という言葉を使いながら、測っているものが全く違います。
| 指標 | 何を測っているか | 2026年1月末の値 | 出典 |
|---|---|---|---|
| ステップ完了率 | 40ステップ中「完了済み+対象外」の割合の全自治体平均 | 81.6% | 総務省 各ステップの進捗状況 |
| システム完了率 | 全34,592システム中、移行が完了したシステム数の割合 | 38.4%(13,283件) | 総務省 PMOツール集計 |
| 自治体完了率 | 全20業務の移行が100%完了した自治体の割合 | 3.7%(65 / 1,741) | GCInsight編集部が総務省データから算出 |
ニュースで「ガバクラの進捗は?」と聞かれたとき、どの数字を使うかで印象は劇的に変わります。
当編集部は、「ガバクラに移行できたのか」を最も正直に伝えるのは自治体完了率だと判断し、GCInsightダッシュボードのメイン指標を 65 / 1,741 に変更しました。
総務省が数字を操作しているわけではありません。
40ステップの進捗管理は、プロジェクト管理のツールとしては合理的です。「どの自治体がどのステップで止まっているか」を可視化できるので、支援の優先順位をつけるには役立ちます。
問題は、このプロジェクト管理上の中間指標が**「完了率」という言葉で一人歩きしてしまっていること**です。
民間企業で例えるなら、引越しプロジェクトで「物件を探した」「見積もりを取った」「引越し業者を決めた」「荷造りを始めた」がタスクリストに並んでいて、実際にはまだ旧オフィスで仕事をしているのに**「進捗率80%」と経営会議で報告する**ようなものです。タスクの消化率としては正しい。でも「引越しは終わったんですか?」と聞かれたら答えはNoです。
「特定移行認定の935団体が完了率を高く見せているのでは?」という疑問も聞きます。
当編集部が総務省データを分離して検証した結果は、逆でした。
| セグメント | 自治体数 | ステップ完了率平均 |
|---|---|---|
| 全1,741自治体 | 1,741 | 81.6% |
| 非特定移行(期限内に移行すべき自治体) | 843 | 86.2% |
| 特定移行認定(最大5年の延長を認められた自治体) | 898 | 77.2% |
(出典: GCInsight編集部が総務省Excel「令和8年1月_進捗状況」シートのoverall_rateを分離集計)
特定移行団体は全国平均を押し下げています。 期限に間に合わないから延長を申請した自治体ですから、ステップの進みも遅いのは当然です。
ただし、非特定移行の843団体のステップ完了率が86.2%と高くても、そのうち全20業務の移行ステップが100%完了しているのは65団体だけです。残りの778団体はステップの大半を終えつつも、最後の「運用開始」にたどり着けていません。86.2%という数字もまた、実態とはギャップがあります。
「軽自動車でよかった人にベンツを買えと言っている構造だ」 ——Meteor氏(note.com コスト増大の原因分析、いいね94)
「安定性が最優先だよ。新しいシステムに変えたら住民票が出せなくなりましたでは済まない」 ——標準化どうしましょう氏(note.com、いいね174)
移行作業の最終段階——データ移行、テスト、そして運用開始——は、住民サービスの停止リスクと隣り合わせです。窓口で住民票が出せなくなる。介護保険の請求が止まる。40ステップのうち、もっとも時間と慎重さが要るのがこの最後の数ステップです。「準備は8割できたのに移行は4割」というギャップは、構造的に起きるべくして起きています。
81.6%は嘘ではありません。40ステップのプロジェクト管理指標としては正確です。
しかし**「ガバクラへの移行が8割終わった」と解釈されるなら、それは数字の誤用です。**
当編集部は、以下の理由からダッシュボードのメイン指標を変更しました。
81.6%を見て「意外と進んでいる」と思った方。38.4%を見て「思ったより遅れている」と思った方。3.7%を見て「ぜんぜん終わっていない」と思った方。
3つとも正しい感想です。ただし、測っているものが違います。
数字は定義とセットで読む。ガバクラに限らず、これはデータを読むときの基本原則です。
中核市平均2.3倍、最大5.7倍——ガバクラ移行後のコスト膨張を費目別に分解。通信回線費・クラウド利用料・運用管理費の内訳をデジタル庁一次資料で検証し、GCInsight編集部が「3割削減」目標の現実性を問います。
2026-03-23935自治体が特定移行支援に認定された今、共同利用型地域クラウド基盤の移行プロセスと期限超過のデメリットを整理。段階的移行戦略4フェーズをGCInsight編集部が解説します。
2026-03-23移行完了率38.4%、特定移行支援8,956システム、935自治体が期限未達——2026年3月末のガバメントクラウド移行をデータで総括。GCInsight編集部が全体像を分析します。
2026-03-23