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2025年度から自治体が負担するガバメントクラウド利用料の仕組み・支払い方法・地方財政措置を解説。中核市市長会調査で運用経費が平均2.3倍になった要因と対策を詳しく紹介します。
2025年度(令和7年度)から、全国の地方公共団体はガバメントクラウドの利用料を自ら負担する新しい制度に移行しました。それまではデジタル庁が一括して負担していたクラウド利用料が、各自治体の予算に乗ってくる——この変化は、すでに標準準拠システムへの移行を終えた自治体だけでなく、移行途上にある多くの自治体にとっても避けられない課題となっています。
地方財政審議会の2025年1月審議資料(総務省)によると、「多くの地方自治体から、ガバメントクラウド利用料を含め標準準拠システム移行後の運用経費が大きく増加するという声も上がっている」とされています。中核市市長会の調査では、移行後の運用経費が移行前と比べて平均2.3倍に達するという結果も報告されています。
この記事では、ガバメントクラウド利用料の仕組み・支払い方法・地方財政措置の現状を整理し、コスト増加の要因と自治体が取れる対応策を解説します。
ガバメントクラウド(Government Cloud)は、デジタル庁が整備・管理するパブリッククラウドの共通利用環境です。Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)、さくらのクラウドの5社(令和8年度募集時点)が採択されており、地方公共団体はこれらのクラウドサービスを通じて標準準拠システムを運用します。
「利用料」とは、各自治体がガバメントクラウド上で実際に使用するクラウドサービス(IaaS・PaaS・SaaS等)に対してCSP(クラウドサービスプロバイダー)に支払われる費用を指します。
地方公共団体情報システム標準化基本方針(2024年12月改定案)では、利用料負担の根拠として以下の3点が示されています。
これらを踏まえ、「ガバメントクラウドの利用に応じて地方公共団体が負担する」という原則が明記されました。
ガバメントクラウドにかかるランニングコストは、クラウドサービス利用料だけではありません。デジタル庁の標準化方針(2025年3月)では、移行後のランニングコストとして以下の項目が整理されています。
| カテゴリ | 項目 |
|---|---|
| クラウドサービス利用料 | CSPの料金見積りツールで試算するCSPサービス費用 |
| 回線利用料 | ガバメントクラウドと各自治体ネットワークをつなぐ回線費用 |
| 運用管理補助委託料 | ガバメントクラウド運用管理補助者・回線運用管理補助者への委託料 |
| アプリケーション等利用料・保守料 | ガバメントクラウドに実装するASPに支払う費用 |
| その他 | MFAデバイス等の費用 |
これらを総称して「ガバメントクラウド利用料等」と呼ぶケースもあり、予算上はこれらを一体として捉える必要があります。
ガバメントクラウドの利用料をめぐる制度経緯を整理します。
flowchart TD
A["令和4年度〜6年度\n実証事業フェーズ\nデジタル庁が全額負担"] --> B["令和5年12月\nデジタル行財政改革会議\n「2024年度以降は自治体負担」方針"]
B --> C["令和6年度\n制度整備のため\nデジタル庁が継続負担\n(自治体分50〜70億円)"]
C --> D["令和7年度(2025年度)\n自治体負担開始\n支払い徴収制度スタート"]
D --> E["令和7年度以降\n地方財政措置で支援\n交付税算入を継続検討"]
日経クロステックの報道(2023年12月)によると、2024年度予算では国と自治体合わせたクラウド利用料として約150億円が見込まれており、このうち自治体分は約50〜70億円と試算されていました。本来は2024年度から自治体に利用料負担を求める方針でしたが、「国が自治体から利用料を集めてCSPに一括支払いするには制度改正等の対応が必要になることが分かった」ため、2024年度は引き続きデジタル庁が全額負担することになりました。
その後、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法)の改正を経て、2025年度から地方公共団体がデジタル庁を通じてCSPに利用料を支払う制度が整備されました。
ガバメントクラウド利用権付与契約書(デジタル庁、2025年3月版)では、利用料の仕組みを以下のように定めています。
利用料金額の原則: 各地方公共団体が利用するクラウドサービスに応じてCSPがデジタル庁に請求する金額に相当する額(利用権付与契約第七条第二項)。
請求・支払いの流れ:
つまり、自治体は直接CSPに支払うのではなく、デジタル庁を介して支払う仕組みです。デジタル庁が国・地方公共団体分をまとめてCSPに一括支払いすることで、スケールメリットを活かした価格交渉が可能となる設計です。
利用権付与契約第九条では、自治体が納付期限を超過した場合、支払い遅延利息金の納付義務が生じると定められています。予算執行の遅れが利息発生につながるため、担当部署は納付スケジュールの管理が必要です。
複数の自治体がパッケージベンダーの共同利用方式でガバメントクラウドを利用する場合、利用料の按分が課題になります。
2025年3月にデジタル庁が公表した令和6年度の検証事業報告書では、按分方式として以下の3案が比較検討されました。
| 按分方式 | 概要 | 採否 |
|---|---|---|
| 均等按分 | 参加団体で等分割 | 不採用(利用実態との乖離大) |
| 利用状況に応じた按分 | リソース使用量(DISK・通信等)で按分 | 採用候補 |
| カスタムスコア按分 | 人口・印刷処理数・通信数を組み合わせたスコアで按分 | 推奨(実態に近く負担軽減) |
検証の結論として、「均等按分方式は採用しない」とされ、カスタムスコア按分(人口・利用システム数・職員数を組み合わせ)が利用実態に近く、かつ情報収集の負担が少ない方式として推奨されています。
具体的な金額は自治体の規模・業務範囲・CSP選択・利用形態によって大きく異なります。令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業での宇和島市の事例が参考になります。
デジタル庁の検証報告書(2026年3月)によると、宇和島市の移行後ランニングコストは**約1億1,200万円の増加(+28%)**となっています。
この検証では、現行データセンター(ハードウェア共有)での「ソフトウェア借料(ASP利用料)」にはシステム運用作業・データセンター利用費・通信回線費・クラウド利用経費が内包されていたため、単純比較が難しい構造であることも明らかになっています。
移行後にソフトウェア借料は削減された一方、別立てとなる回線費・運用管理補助委託料・MFAデバイス費用等が新たに顕在化するため、「表面上の利用料だけ見ると低く見える」落とし穴があります。
中核市市長会の調査や複数の検証事業から、運用経費が増加する主要因として以下の4つが浮かび上がっています。
ガバメントクラウドへ接続するための専用回線費用が新規に必要となります。現行システムがオンプレミスまたは庁内データセンターにある場合、外部クラウドへのセキュアな回線の新設・維持費が追加で発生します。
ガバメントクラウドの維持管理には、GCAS(ガバメントクラウド接続サービス)の操作や監査ログ管理等の専門知識が必要です。これをベンダーに委託するためのガバメントクラウド運用管理補助者委託料が発生します。
複数のCSPを使い分ける場合(例: 住民基本台帳系はAWS、財務会計系はOCI等)、それぞれのCSPに対する設定・管理コストが重複します。多くの先行事業団体は「マルチCSPは原則採用しない」方針で単一CSPに統一してコスト抑制を図っています。
標準化に伴い既存システムのカスタマイズを解消するための業務プロセス変更が必要となります。短期的には職員研修・業務手順の変更に伴うコストが発生し、これが運用経費全体の増加に寄与しています。
flowchart TD
A["ガバメントクラウド\n移行後の費用増加"] --> B["回線費用\n(新規発生)"]
A --> C["運用管理補助委託料\n(外部化)"]
A --> D["マルチCSP管理コスト\n(重複発生)"]
A --> E["業務改変コスト\n(カスタマイズ解消)"]
コスト増加が避けられないとしても、適切な対策でその幅を抑えることは可能です。
各CSPが提供する料金見積りツール(AWS Pricing Calculator、Google Cloud料金計算ツール等)を使い、移行前の段階でリソース別の月額試算を行います。デジタル庁の手順書でもこれを推奨しており、根拠のある予算要求が可能となります。
単独でガバメントクラウドに移行するよりも、都道府県や市町村が広域連合・共同利用方式でシステムを共同利用する方が、CSPリソースの効率化とコスト按分のメリットが得られます。先行事業の検証でも、共同利用によるリソース節約効果が確認されています。
ガバメントクラウド上のAWSやOCI等では、1〜3年の長期コミットメントによる割引(Reserved Instance等)が利用できます。安定的に使用するリソースについては事前に長期割引を適用することで、ランニングコストを大幅に削減できます。宇和島市の検証事業でも「長期継続割引適用により経費を削減」する方針が採用されています。
FinOps(クラウド財務最適化)の観点から、クラウド利用料の見える化・定期的なリソースレビュー・未使用リソースの停止などを実施します。民間企業では一般的なクラウドコスト管理の手法を自治体の業務サイクルに合わせて適用することで、継続的なコスト最適化が図れます。
コスト増加への対応として、国は地方財政措置(地方交付税算入)を準備しています。
総務省の地方財政審議会資料(2025年1月)では次のように示されています。「標準準拠システムの安定的な運用のために必要な経費については、所要の財源を確保し、適切に地方財政措置を講じる」。
ガバメントクラウド利用料の増加分については、デジタル庁が把握するガバメントクラウドへの移行状況等を踏まえ、所要の地方交付税措置が講じられることとなっています。
さらに、総務省は令和7年度(2025年度)末までとされていたデジタル基盤改革支援基金の設置年限について、5年延長を目途に検討することを標準化基本方針改定案に盛り込みました。これにより移行経費の財政支援期間が延長される見込みです。
ただし、地方財政措置はあくまで「一定の財源確保」であり、超過分を全額補填するものではありません。自治体としては、財政措置を前提にしつつも、独自のコスト最適化を進めることが求められます。
Q1. 利用料はいつ、どのように請求されますか?
デジタル庁がCSPからの請求に基づき、各地方公共団体に対して「請求書兼立替金精算書」を発行します。自治体はこれに従って所定の期限までにデジタル庁へ納付します。直接CSPへ支払う方式ではありません。利用料の納付業務は、デジタル庁の承諾を得ることでガバメントクラウド運用管理補助者に委託することも可能です(利用権付与契約第十条)。
Q2. 利用料の地方交付税措置は自動的に受けられますか?
基本的には、標準準拠システムへ移行し、ガバメントクラウドを利用している自治体を対象に措置が検討されますが、具体的な算定方法・算入率は年度ごとに確認が必要です。総務省の地方財政計画や交付税の算定通知を確認することをお勧めします。
Q3. 共同利用方式で他の自治体と費用を按分する場合、どの方式が推奨されていますか?
デジタル庁の検証事業(令和6年度)では「カスタムスコア按分」(人口・印刷処理数・通信数を組み合わせたスコアによる按分)が推奨されています。均等按分は利用実態との乖離が大きいため採用しないことが結論づけられています。
Q4. 標準準拠システムへ移行しない場合、利用料はどうなりますか?
ガバメントクラウドの利用は標準化法第10条により「努力義務」とされており、移行しない場合はガバメントクラウドの利用料は発生しません。ただし、ガバメントクラウド以外の環境でシステムを運用する場合は、その運用コストを自治体が自ら負担することになります。
Q5. 予算要求のために見積りを取る方法は?
各CSPが提供する料金見積りツール(例: AWS Pricing Calculator)を活用します。デジタル庁のGCASガイドにも見積り手順が記載されています。また、ガバメントクラウド運用管理補助者(認定ベンダー)から見積もりを取ることも有効です。予算担当課への説明材料としては、移行前後の費用比較表を作成し、地方財政措置による交付税算入額を控除した「実質負担額」を示すと説得力が増します。
ガバメントクラウド利用料の制度は2025年度から本格運用に入っており、移行済み・移行中・未着手の自治体いずれも、今後の予算編成に直接影響します。
自治体の移行状況・コスト試算・CSP別の費用動向は、GCInsight(gcinsight.jp)のコスト分析ページでリアルタイムに確認できます。また、ベンダー・CSP別の詳細情報や都道府県別の移行進捗も合わせて参照すると、他自治体との比較が可能です。
利用料の予算計上にあたっては、gcinsight.jpのダッシュボードで移行状況と費用の全体像を確認したうえで、デジタル庁・CSP・ガバメントクラウド運用管理補助者との連携を早期に開始することをお勧めします。
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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