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総務省「自治体フロントヤード改革推進手順書」(令和7年5月)に基づき、書かない窓口・オンライン申請にとどまらない総合的改革の進め方を解説。2026年度末300自治体目標の現状と人口規模別モデル事例を紹介します。
自治体の窓口DX担当者から寄せられる声の中に、こんなものがあります。「書かない窓口を導入したら住民からは好評なのに、裏側の業務は逆に増えた気がする」——この現象は、構造的な問題を示しています。
総務省が2023年2月に実施した「窓口業務改革状況簡易調査」によると、指定都市・中核市では窓口改革が着実に進んでいる一方、それ以外の団体では取組率が10%程度にとどまっていました。さらに、改革に取り組んでいる自治体でも「書かない窓口だけ」「オンライン申請だけ」という部分最適な実装が多く、住民接点のデジタル化と業務フローのデジタル化が分断されているケースが目立ちます。
この分断こそが、「フロントヤード改革」という概念が生まれた背景です。
これまでの自治体窓口DXは、住民との接点(フロント)だけを増やす「マルチチャネル化」が中心でした。オンライン申請と窓口での紙申請が並列で存在し、職員は両方の処理を行わなければならない——これではデジタル化しても業務負担は変わらない、あるいは増えるケースすらあります。
総務省自治行政局行政経営支援室長の君塚明宏氏は、2024年4月のインタビューで次のように整理しています(TKC情報誌「新風」2024年4月号より)。
「これまでの取り組みは、紙とデジタルの申請が混在したまま住民との接点だけを複数用意するマルチチャネル化。これでは住民は便利になっても職員の業務負担は逆に増えかねない。フロントヤード改革は、フロントからバックヤードの業務までエンドツーエンドでデジタル化することで、住民の利便性向上はもちろん業務の効率化が期待できる」
つまり、フロントヤード改革の本質は「住民接点の多様化」と「バックヤードの集約・効率化」を同時に実現するエンドツーエンドのデジタル化です。
総務省「自治体フロントヤード改革推進手順書」(令和7年5月30日・第1.0版)では、改革の目的を以下の3点に整理しています。
flowchart TD
A["住民接点の多様化・充実化\nオムニチャネル化"] --> D["総合的な\nフロントヤード改革"]
B["データ対応の徹底\nEnd to End デジタル化"] --> D
C["庁舎空間の変革\n手続の場→協働・相談の場"] --> D
D --> E["住民の利便性向上\n+職員の業務効率化"]
E --> F["持続可能な\n行政サービスの提供体制"]
第1の柱: 住民接点の多様化(オムニチャネル化)
オンライン申請、書かない窓口、リモート窓口、移動市役所——これらを並列で「提供する」だけでなく、どのチャネルからアクセスしても同じデータ・同じサービス品質を受けられる状態を目指します。マイナンバーカードを活用し、自宅、郵便局、庁舎窓口など様々な場所での手続を可能にするのがここでのゴールです。
第2の柱: データ対応の徹底(End to End デジタル化)
対面での手続であっても、住民が記入した紙のデータをバックヤードで再入力するのではなく、フロントでデータを取得し、そのままバックヤードの処理に流す——これが「End to End」のデジタル化です。処理状況の見える化(処理件数・待ち時間等)も進み、データドリブン行政経営につながります。
第3の柱: 庁舎空間の変革
手続が「書かない・待たない・迷わない・行かない」で完結するようになれば、庁舎の記載台や手続専用カウンターは不要になります。空いたスペースを住民と行政の相談・協働の場として活用する——これが改革の最終形です。
「令和6年度自治体フロントヤード改革に係る取組状況等調査」(総務省)によると、全1,741自治体の取組状況は以下のとおりです。
| 指標 | 実施団体数 | 割合 |
|---|---|---|
| DX推進方針へのフロントヤード改革明記 | 684団体 | 39.3% |
| フロントヤード改革に関する体制構築 | 474団体 | 27.2% |
| マイナポータルを活用したオンライン申請導入 | 1,429団体 | 82.1% |
| 汎用的電子申請システム導入 | 1,240団体 | 71.2% |
出典:総務省「自治体フロントヤード改革推進手順書」(令和7年5月)
オンライン申請の導入率は80%を超えている一方、「フロントヤード改革」として総合的に取り組んでいる(方針に明記・体制を構築)自治体はまだ4割・3割弱です。「書かない窓口を入れた」ことはスタートラインであり、フロントヤード改革の入口にすぎないことが数字からも確認できます。
取組の進捗は団体の規模によって大きな差があります。指定都市・中核市では改革が進んでいる一方、小規模自治体ほど人材不足・予算制約から着手が遅れる傾向があります。2026年度末に300自治体での総合的改革取組を目指す政府目標(出典:総務省「自治体DX推進計画」関連資料)に対し、現在の体制構築済み474団体は数字上は上回っているものの、「総合的な改革」まで到達しているかどうかは別問題です。
総務省が令和7年5月に公表した「自治体フロントヤード改革推進手順書」は、「何から着手すればよいかわからない」という自治体の声に応えた実践的ガイドです。改革の進め方を以下の段階に整理しています。
まず、自団体の窓口の現状(来庁者数・待ち時間・申請書類の種類・オンライン申請率等)をデータで把握します。取組状況の「見える化」なしに改革の優先順位は決められません。
総務省のフロントヤード改革ポータルサイトでは、全国の取組状況ダッシュボードが提供されており、人口規模や地域で絞り込んで類似団体の取組を参考にすることができます。
DX推進計画等の全体方針に「フロントヤード改革」を明記し、中長期のロードマップを作成します。「書かない窓口の導入」という個別施策ではなく、「バックヤードとの連携を含む総合改革」として位置づけることが重要です。
デジタルツールを導入する前に、現在の業務フローを見直します。「なぜこの手続きが必要か」「どの情報を誰がいつ確認しているか」を整理せずにシステムを導入しても、デジタル化した不効率が生まれるだけです。
業務改革(BPR)は「書かないワンストップ窓口」の実装より先に行う——これが手順書が示す重要な順序です。
業務フロー整理後、窓口DXSaaS(デジタル庁がガバメントクラウド上で提供)や汎用電子申請システムを調達します。費用対効果の検討・仕様確定・ベンダー選定が含まれます。
導入後は「住民満足度」「待ち時間削減率」「オンライン申請率」等の成果指標で効果を継続的に検証します。「トライアル・アンド・エラー」で継続改善する仕組みを作ることが、成功した自治体に共通する特徴です。
令和5年度補正予算10.2億円で実施された「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」では、人口規模別に先進的なモデルが創出されました(出典:総務省・内閣府経済財政諮問会議資料)。
| 人口規模 | モデル団体 | 特徴的な取組 |
|---|---|---|
| 1万人未満 | 北海道上川町・鹿児島県瀬戸内町 | オンライン申請と窓口統合で職員を9人→5人体制に。生み出した人員を企画・アウトリーチ業務に配置 |
| 5万人未満 | 島根県江津市・三重県明和町・鹿児島県指宿市 | リモート窓口化で公共交通空白地域の利便性向上。生成AI活用FAQチャットボットを実装 |
| 10万人未満 | 愛知県みよし市 | 窓口業務支援システム「らくまど」導入。繁忙期の待ち時間・手続時間を半減 |
| 30万人未満 | 青森県八戸市 | 申請手続の40%デジタル化、来庁者待ち時間40%削減、年間約16,600時間の業務削減を目標(令和8年度時点) |
| 高度分析型 | 山形県酒田市・静岡県裾野市・東京都八王子市・福岡県北九州市等 | データ分析を活用した先駆的改革モデル |
出典:総務省・第41回国と地方のシステムWG提出資料(令和6年11月25日)
上川町の事例は、人口1万人未満の小規模自治体でも「人員配置の変革」まで到達できることを示しています。重要なのは、システム導入が目的ではなく、「職員が企画・相談業務に時間を使える状態を作ること」がゴールだという点です。
「書かない窓口」を実装するためのシステム基盤として、デジタル庁が提供する「窓口DXSaaS」があります。ガバメントクラウド上で提供されるこのシステムは、各自治体が個別にシステムを調達・保守する負担を大幅に軽減します。
2024年1月に和歌山県紀の川市で稼働を開始し、その後全国に展開。マイナンバーカードを活用して住民情報を自動入力し、申請書への記入を不要にする仕組みです。
ガバメントクラウドへの移行とフロントヤード改革は、自治体DXの「バックヤード」と「フロントヤード」を統合的に進めるための両輪です。バックヤードの標準化(情報システムの標準化)が進めば、フロントヤードから流入するデータの処理が効率化され、改革の効果が最大化されます。
詳細はGCInsight(gcinsight.jp)でガバメントクラウドの最新動向を確認してください。
「令和6年度自治体フロントヤード改革に係る取組状況等調査」では、改革推進における課題として以下が多く挙げられました。
課題1: 取り組むための人材確保
DXリテラシーを持ちつつ業務改革を主導できる人材が不足しています。総務省では「窓口BPRアドバイザー」の派遣支援を実施しており、外部専門家の活用が現実的な選択肢です。
課題2: 予算・財源の確保
デジタル田園都市国家構想交付金等の活用が有効ですが、申請・執行に係る事務負担も生じます。令和5年度補正予算10.2億円の「自治体フロントヤード改革支援事業」は令和6年度に人口規模別モデル構築を支援しました。
課題3: 住民への説明・理解促進
「窓口に行かなくてよくなった」という変化は住民に歓迎される一方、デジタル機器に不慣れな高齢者等への配慮が必要です。「誰一人取り残されない人に優しいデジタル化」は、フロントヤード改革を推進する上での大前提です。リモート窓口や移動市役所を組み合わせ、デジタルにアクセスできない方への支援チャネルを維持することが求められます。
Q1. 書かない窓口はすでに導入済みです。フロントヤード改革は別途必要ですか?
A. 書かない窓口の導入はフロントヤード改革の重要な要素ですが、それだけでは改革の全体像の一部です。住民から受け取ったデータがバックヤードでどう処理されているかを確認してください。紙を廃止したものの、担当部署への転送は電話・メールで行っている——そうした「デジタルと紙の並走」が残っていれば、業務効率化の効果は限定的です。フロントヤード改革は「フロントからバックまでのデータ流通を一本化する」ことで初めて完成します。
Q2. 小規模自治体(人口1万人未満)でも取り組めますか?
A. 取り組めます。北海道上川町のモデル事例では、人口1万人未満でありながら窓口職員数を9人から5人に削減し、生み出した人員を企画・アウトリーチ業務に配置するという成果を上げています。総務省の手順書では人口規模別のアプローチが示されており、小規模団体向けの支援メニューも整備されています。
Q3. どこから着手すればよいですか?
A. 最初の一歩は「現状把握」です。現在の来庁者数・窓口の待ち時間・オンライン申請の利用率・職員の業務負担をデータで把握することから始めます。総務省フロントヤード改革ポータルの取組状況ダッシュボードで、類似規模の他自治体の取組を参考にすることも有効です。データなき改革は方向を誤るリスクがあります。
Q4. 費用はどのくらいかかりますか?
A. デジタル庁の窓口DXSaaSはガバメントクラウド上で提供されるため、個別にシステムを調達する場合と比べてコストを抑えられます。デジタル田園都市国家構想交付金等の財源活用も可能です。ただし、システム費用よりも「BPRのための職員の時間投資」が先行コストとして必要であることを念頭に置いてください。
フロントヤード改革は、書かない窓口の「入れたら終わり」ではなく、バックヤードとのデータ連携・業務フロー改革・成果指標設定を含む継続的なプロセスです。
今すぐ確認できること:
ガバメントクラウドへの移行状況や自治体のDX進捗は、GCInsight(gcinsight.jp)でリアルタイムに確認できます。関連記事として自治体DX標準化の現状やガバメントクラウドの最新動向もあわせてご参照ください。
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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