
デジタル庁が公表する適合確認試験の合格製品一覧の正しい読み方を解説。「一部機能における経過措置」付き製品が持つ2028年度末までの猶予期間と、調達時に自治体が見落としがちなリスクを、公式資料をもとに具体的に説明します。
デジタル庁の適合確認試験サイト(lgsys-conformance.digital.go.jp)に掲載された「合格製品」は、移行先システムを選ぶ際の第一の拠り所です。しかし当編集部が公式資料(適合確認試験実施マニュアル等)とRAGデータを分析したところ、合格製品の一部には「一部機能における経過措置」が付いており、合格日時点で全機能が標準化基準に適合しているわけではないことが明らかになりました。
「合格した製品を選べば安心」——この思い込みが、2026年度以降の調達で想定外のコストと工期延長を招くリスクがあります。
地方公共団体情報システム標準化基本方針(2024年12月24日閣議決定)では、標準準拠システムの要件を次のように規定しています。
標準化基本方針(改定案)新旧対照表(デジタル庁・2024年12月)によると:
連携要件に関する標準化基準の適合は、データ連携やデータの利活用の観点から実装面においても十分に確保されている必要があることから、標準準拠システムは、デジタル庁が提供するツールを使って実施されるデータ要件・連携要件に関する標準化基準に係る適合確認試験に合格したシステムでなければならない。
つまり適合確認試験は、データ要件・連携要件の標準化基準に適合しているかどうかをデジタル庁のツールで検証する仕組みです。合格したシステムは「適合システム」として公式サイトに掲載され、自治体はそれをデータ要件・連携要件の標準に適合した標準準拠システムとして利用できます。
適合確認試験が対象とするのは、標準化20業務のうちデータ要件・連携要件に関する部分です。GCInsight編集部がRAGデータから取得した申請要領によれば、対象業務は以下のように分類されています。
| 業務ID | 業務名 |
|---|---|
| 001 | 住民基本台帳 |
| 002 | 印鑑登録 |
| 003 | 戸籍 |
| 004 | 戸籍の附票 |
| 005 | 選挙(共通) |
| 006 | 選挙人名簿管理 |
| 007 | 期日前・不在者投票管理 |
| 008 | 当日投票管理 |
| 010 | 個人住民税 |
| 011 | 法人住民税 |
| 012 | 固定資産税 |
| 013 | 軽自動車税 |
| 017 | 学齢簿編製 |
| 020 | 児童扶養手当 |
| 021 | 生活保護 |
| 022 | 障害者福祉 |
| 023 | 介護保険 |
| 025 | 後期高齢者医療 |
| 026 | 国民年金 |
| 027 | 児童手当 |
| 028 | 子ども・子育て支援 |
(出典: 適合確認試験申請要領内業務一覧・デジタル庁)
重要なのは、適合確認試験が機能標準化基準(何の機能を持つべきか)ではなく、データ要件・連携要件の標準化基準(データをどう扱うか・他システムとどう連携するか)の確認に特化している点です。標準化法第8条が求める機能標準化基準への適合は、最終的には自治体自身が確認する責任を負います。
lgsys-conformance.digital.go.jpに掲載された合格製品は、以下の項目で構成されています。
flowchart TD
A["合格製品エントリ"] --> B["事業者名"]
A --> C["製品名・識別"]
A --> D["全体バージョン"]
A --> E["合格日"]
A --> F["自治体区分"]
A --> G["対応業務"]
A --> H{"経過措置"}
H --> |あり| I["「一部機能における経過措置」\n表示あり"]
H --> |なし| J["通常合格"]
GCInsight編集部がRAGデータから確認した主な合格事例(2025〜2026年度)を以下に整理します。
| 事業者名 | 製品名 | 全体Ver | 合格日 | 主な対応業務 |
|---|---|---|---|---|
| 富士通Japan | MICJET (V10) | 4.0 | 2026/1/7〜 | 住民基本、国民年金、学齢簿、就学援助 |
| 富士通Japan | MCWEL (V10) | 4.0 | 2026/1/22 | 後期高齢(一般市・指定都市) |
| 富士通Japan | 生活保護 (V10) | 4.0 | 2026/2/13〜 | 生活保護(指定都市・一般市・都道府県) |
| 日本電気 | COKAS-i (Ver2) | 4.0 | 2025/10/20〜 | 住民基本、税務全般、介護保険、後期高齢 |
| 日本電気 | 戸籍総合システム REPROS-X | 6.0 | 2025/9/10〜 | 戸籍、戸籍附票 |
| NECネクサソリューションズ | COKAS-R for Gov-Cloud | 6.0/8.0 | 2026/2/9〜 | 住民基本、税務全般(8.0版に経過措置あり) |
| 株式会社TKC | TASKクラウドシステム (v1.0) | 2.0 | 2026/2/26 | 住民基本、税務全般、福祉系 |
| 行政システム | Probono住民情報 (v1.0) | 4.0 | 2024/12/27 | 住民基本、税務全般、国民年金 |
| 株式会社RKKS | 総合行政システム (Ver4.1) | 4.0/5.0 | 2026/1/20〜 | 税務、選挙、福祉 |
| 内田洋行 | 福祉総合システム(児童福祉) | 4.0 | 2026/1/7 | 児童扶養、児童手当、子ども・子育て |
| 内田洋行 | 福祉総合システム(障害者福祉) | 4.0 | 2026/1/15 | 障害者福祉 |
| 日立製作所 | 政令市向け国民年金システム | 4.0 | 2025/11/28 | 国民年金(指定都市) |
| 株式会社BCC | G-AFFECT | 8.0 | 2026/3/17 | 一部機能における経過措置・健康管理 |
(出典: lgsys-conformance.digital.go.jp/gokaku・GCInsight編集部調べ)
バージョンに注目してください。 全体バージョンは標準仕様書の版を示します。2.0〜10.0という幅広い数字は、各製品がどの時点の標準仕様書に対応して試験を受けたかを意味します。RAGデータでは4.0が最も多く、最新の8.0〜10.0への対応はまだ一部にとどまっています。
合格製品一覧の中で最も見落とされがちなのが、**「一部機能における経過措置」**の存在です。
標準化基本方針における一部機能の経過措置の概要(デジタル庁・2025年2月)では、経過措置の条件を次のように定めています:
当該経過措置の対象とするシステムは、以下の要件を満たすものとする。 ① データ要件・連携要件に関する標準化基準に適合し、標準化されたデータの利活用が可能となっていること。 ② 標準化対象事務に係る法令又は事務を所管する省庁(以下「制度所管省庁」という。)及び地方公共団体が、当該一部機能の経過措置の必要性を認め、遅くとも令和10年度(2028年度)末までに機能標準化基準に適合するものであること。
つまり経過措置付き製品は、**「合格はしているが、一部の機能については2028年度末まで猶予を受けている」**状態です。民間企業で言えば、工場の安全基準検査に「条件付き合格」した状態で稼働を開始するようなものです。
適合確認試験FAQシート(デジタル庁・2025年10月)によれば、経過措置の対象となるのは令和7年(2025年)4月末時点の標準仕様書に記載されている実装必須機能のうち、適合基準日が令和8年(2026年)4月1日のものです。さらに、一部機能経過措置は全体バージョン8.0以降のツールでのみ申請可能とされています。
これは自治体にとって何を意味するのか。当編集部は以下の3点でリスクを整理しました。
flowchart TD
A["経過措置付き製品を導入"] --> B["移行完了・運用開始"]
B --> C{"2027年度末"}
C --> |制度所管省庁が検討| D["対象機能の標準化基準の\n取扱いを確定"]
D --> E{"2028年度末"}
E --> |期限| F["機能標準化基準への\n完全適合が必要"]
F --> G["追加改修コスト発生"]
F --> H["スケジュール調整が必要"]
リスク1: 2028年度末に追加対応が必要になる
経過措置はあくまで猶予であり、免除ではありません。2028年度末(令和10年度末)には機能標準化基準への完全適合が求められます。この時点での改修費用と工期を、調達段階から見積もりに含めているかどうかが問われます。
リスク2: 経過措置の対象機能が「任意」として試験されている
RAGデータから取得した実施マニュアル(tekigou_manual.pdf)によれば、経過措置適用時は「必須」または「条件付き必須」だったデータ入出力条件が「任意」として緩和されて試験されます。つまり通常合格より試験のハードルが低い状態で合格しているという点を認識する必要があります。
リスク3: 合格後に対象機能の標準化基準が変更される可能性がある
経過措置対象機能の標準化基準上の取扱いについては、制度所管省庁において令和9年度(2027年度)末までに所要の検討を行うとされています。検討結果によっては要件自体が変更される可能性があり、現時点では最終的な対応範囲が確定していません。
RAGデータで確認できた経過措置付き製品の例として、NECネクサソリューションズの「COKAS-R for Gov-Cloud」(全体バージョン8.0・合格日2026/2/16)は対応業務に「一部機能における経過措置」が明示されています。同製品の全体バージョン6.0(合格日2026/2/9)では経過措置の記載がなく、バージョンによって経過措置の有無が異なることがわかります。
同様に、(株)BCC の「G-AFFECT」(全体バージョン8.0・合格日2026/3/17)も「一部機能における経過措置」と「健康管理(019業務)」の組み合わせで合格しており、健康管理業務について一部猶予を受けた状態であることが確認できます。
適合確認試験の合格製品を選定する際、GCInsight編集部は以下の確認を推奨します。
確認1: 経過措置の有無と対象業務の特定
合格製品一覧で「一部機能における経過措置」の表示がある場合は、どの業務IDのどの機能が対象かを事業者から書面で確認してください。試験申請時に提出された「一部機能経過措置登録書」の内容開示を求めることが有効です。
確認2: 全体バージョンと自治体が移行後に利用するバージョンの照合
合格製品一覧に記載された全体バージョンは、その製品が試験を受けた時点の標準仕様書の版です。しかし、実際の移行後に利用するバージョンが異なる場合は、改めて適合確認試験への合格が必要になるケースがあります。事業者に「自治体区分・対象業務での最新バージョン合格状況」を確認してください。
確認3: 2028年度末の完全適合に向けたロードマップの入手
経過措置付き製品を選定する場合は、2028年度末までの対応ロードマップと、その時点での追加費用見積もりを事業者から提出させることが重要です。これは稟議資料にも記載すべき事項です。
RAGデータが示す合格製品の傾向から、GCInsight編集部はいくつかの特徴を読み取りました。
富士通Japan: MICJET・MCWEL・生活保護等、業務別に複数製品が全体バージョン4.0で合格。2026年1〜2月にかけて集中的に合格取得が進んでいます。製品識別は「V10」で統一されており、クラウド移行版として再整理された状態とみられます。
日本電気(NEC): COKAS-i(Ver2、全体バージョン4.0)が指定都市・一般市で幅広く合格。戸籍システム(REPROS-X)は全体バージョン6.0での合格と、業務によってバージョン対応が異なります。NECネクサソリューションズのCOKAS-R for Gov-Cloudは全体バージョン6.0と8.0の両方で合格しており、8.0版に経過措置が付いている点に注意が必要です。
TKC: TASKクラウドシステム(v1.0)が全体バージョン2.0での合格と、他の大手より古いバージョンです。ただしカバーする業務範囲は広く、税務・住民系を中心に統合収納管理機能まで含んでいます。
地域SIer(RKKS・BCC・行政システム等): 全体バージョン4.0〜8.0での合格が確認されています。特にBCCのG-AFFECTは全体バージョン8.0で合格している一方、経過措置付きです。
RAGデータを分析すると、「Gov-Cloud」「クラウド」を製品名に含む合格製品が増えています。NECネクサソリューションズの「COKAS-R for Gov-Cloud」は製品名にガバメントクラウドへの対応を明示しており、クラウドネイティブなシステムとして設計されていることを示しています。一方で、オンプレミスからの移植版は製品名に変化がなく、内部アーキテクチャがどう変わっているかを確認する必要があります。
標準仕様書と適合確認に関する考え方(デジタル庁・2023年10月)によれば、標準化法第8条は「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない」と定め、その確認責任は地方公共団体が一義的に負うとされています。
つまり制度の二層構造は次のようになります。
flowchart TD
A["標準化基準への適合"] --> B["機能標準化基準\n(標準化法第6条)"]
A --> C["データ要件・連携要件\n標準化基準(標準化法第7条)"]
B --> D["確認責任: 地方公共団体\n機能IDごとに\n実装状況を確認"]
C --> E["確認手段: 適合確認試験\n(デジタル庁ツール)\n合格=適合とみなす"]
適合確認試験に合格していればデータ要件・連携要件については適合とみなされますが、機能標準化基準への適合(どの機能が実装されているか・余計な機能が入っていないか)は、依然として自治体が事業者の提案書・マニュアルで確認しなければなりません。
この二層構造を理解せずに「合格製品だから機能面も問題ない」と判断するのは、リスクの取り方として適切ではありません。
Q: 合格製品一覧に掲載されていない製品は利用できないのか?
A: 標準準拠システムとして利用するためには、適合確認試験への合格が必要です(標準化基本方針・2024年12月改定)。未掲載製品は合格していないか、まだ試験を受けていない状態です。導入を検討している製品が未掲載の場合は、事業者に受験予定を確認してください。
Q: 経過措置付き製品は標準準拠システムとして認められるのか?
A: 認められます。経過措置の適用要件(①データ要件・連携要件の標準適合、②制度所管省庁と地方公共団体が経過措置の必要性を認めた)を満たした上で合格しているため、標準準拠システムとして利用可能です。ただし2028年度末までの完全適合が義務付けられており、その対応は事業者と自治体が連携して進める必要があります。
Q: 全体バージョンが低い製品(2.0など)は古いのか?
A: 全体バージョンは標準仕様書の版を示しており、低いバージョンで合格した製品は、その時点の標準仕様書に対応しています。ただし、その後の標準仕様書改定への対応(新バージョンでの再合格)が予定されているか確認することが重要です。最新の標準仕様書(全体バージョン10.0以降)への対応状況は事業者に確認してください。
Q: 事業者が複数のバージョンで合格している場合、どのバージョンを参照すべきか?
A: 自治体が導入予定のシステムバージョンと一致するエントリを参照してください。同一製品でも業務や自治体区分(一般市・指定都市・都道府県・町村)ごとに別エントリになっている場合があるため、自治体の規模・対象業務に合致したエントリを確認することが重要です。
適合確認試験の合格製品選定で失敗しないために、当編集部が推奨するチェックリストをまとめます。
gcinsight.jp では、標準化対象20業務の進捗状況・自治体別の移行状況を集計したダッシュボードを提供しています。製品選定の前提となる自治体全体の標準化状況を確認し、調達判断の参考にしてください。
標準化対象業務ごとのベンダー対応状況については、自治体システム標準化ベンダー一覧2026——主要事業者の対応状況マップ もあわせてご確認ください。
参考文献・出典
本記事は以下の一次資料に基づいて作成しました。
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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