
ガバメントクラウドを利用中の自治体の96.4%がAWSを選択。デジタル庁データが示す外資依存の実態と、安全保障・コスト・競争環境への影響、さくらインターネット参入後の変化を2026年最新情報で解説します。
ガバメントクラウドはその設計思想として「マルチクラウド」を標榜しています。デジタル庁は2021年度の公募開始以来、複数のクラウドサービス提供事業者(CSP)を採択し、自治体が選択できる環境を整備してきました。ところが実態は、その名称と大きく乖離しています。
朝日新聞の報道(2025年)によると、ガバメントクラウドを利用中または利用を決定した自治体1,397団体のうち、96.4%にあたる1,347自治体がAWSを選択しています。残る3.6%もGoogle Cloud・Microsoft Azure・OCIといった米国企業のサービスであり、国産クラウドの選択肢はゼロという状況でした(さくらインターネットの正式認定は2026年3月)。
なぜ、AWS1社への集中がここまで進んだのでしょうか。本記事では、その構造的な原因と、外資依存が自治体にもたらすリスクを整理します。
まず、現在のガバメントクラウドの採択状況を確認します。2026年3月27日にデジタル庁が公表した令和8年度募集の審査結果では、以下の5サービスが選定されています(出典: デジタル庁「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービスの提供-令和8年度募集-における審査結果」2026年3月27日)。
| クラウドサービス | 事業者国籍 | 初回採択時期 |
|---|---|---|
| Amazon Web Services (AWS) | 米国 | 2021年度 |
| Google Cloud | 米国 | 2021年度 |
| Microsoft Azure | 米国 | 2022年度 |
| Oracle Cloud Infrastructure (OCI) | 米国 | 2022年度 |
| さくらのクラウド | 日本 | 2023年度(条件付き)→2026年3月正式認定 |
形式上は5社5サービスが並列に並んでいますが、自治体の実際の選択は特定の1社に極端に偏っています。
2021年度の公募では、デジタル庁が305項目以上の技術要件を設定しました。要件の主な内容は「採用実績100件以上」「データ分析機能・機械学習関連機能の提供」「メンテナンス時・障害発生時にもサービスを止めない」といった項目です。
国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、これらの要件について「自治体には明らかにオーバースペックな内容になった」と指摘しています(出典: 朝日新聞「日本国民の重要情報、米国企業のガバクラに」)。
人口数百人の小規模自治体と、何千万人のデータを扱う厚生労働省が同じ技術要件に縛られる仕組みは、大規模なクラウドインフラを持つ外資大手企業にとって有利に働き、国内事業者には事実上の参入障壁となりました。
flowchart TD
A["技術要件305項目\n採用実績100件以上\nML機能提供etc."] --> B["外資大手CSPのみクリア\nAWS/Google/Azure/OCI"]
A --> C["国内事業者は参入困難\n→さくら: 条件付き採択"]
B --> D["自治体の選択肢が実質限定"]
C --> D
D --> E["AWS1社への集中\n1,347自治体/96.4%"]
自治体の標準化システムへの移行は義務ですが、移行後のクラウド環境については技術的には自治体が選択できます。ただし、国はガバメントクラウドの利用を条件に移行経費を補助する仕組みを設けており、自治体を実質的にガバクラ利用に誘導しました。
補助金の規模は7,741億円(移行経費)、さらに運用経費の増加分に対する補助として700億円が追加計上されています。財政制約が厳しい自治体にとって、補助金を取りにいくことは事実上の必須条件であり、ガバクラ利用=AWSという流れが形成されました。
ガバメントクラウドへの移行が最初に進んだ団体(早期移行団体)が主にAWSを選択したことで、後続の自治体にとってAWSが「デファクトスタンダード」になりました。ベンダー(システム会社)側もAWS上での開発・運用ノウハウを先行して蓄積しており、後発CSPへの移行は追加コストや工数が発生します。
デジタル庁の「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業」によると、調査対象団体における採用・採用検討CSPのうちAWSが約74%(シングルクラウド295件+マルチクラウド71件)、OCI(Oracle Cloud Infrastructure)が約26%という結果でした。Google CloudやMicrosoft Azureの採用件数は極めて少なく、事実上AWS対OCIの2択になっています(出典: デジタル庁「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業」2026年3月27日)。
最も深刻な懸念が、米国政府による情報開示要求です。米国には「CLOUD法(Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act)」があり、米国の裁判所の令状があれば、米国企業は米国外に保存する非米国人のデータの開示を求められることがあります。
ガバメントクラウドに保管される情報には、住民基本台帳・国民年金・固定資産税・生活保護・選挙人名簿など、住民の個人情報が広く含まれます。現時点でデジタル庁は「速やかに日本政府に通知するとともに、クラウドサービス提供事業者が異議を申し立てる」という対応方針を定めていますが(内閣府・デジタル庁共同資料より)、これは米国政府の要求を遮断する法的保証ではありません。
日米間の政治・外交関係が変化した場合のリスクは、制度設計上完全には排除できない構造的な課題です。
産経新聞の報道によると、外資ITへの依存は国際収支を年間1.6兆円悪化させる要因になっているとされています。ガバメントクラウドの利用料は、デジタル庁が一括してCSPに支払う仕組みで、2024年度予算では国・自治体分合わせて約150億円(そのうち自治体分は50〜70億円)が見込まれていました(出典: 日経xTECH「次年度ガバメントクラウド利用料約150億円をデジ庁が負担」)。
2025年度からは自治体が自ら利用料を負担する制度に移行しており、AWSを中心とした外資CSPへの支払いが継続的に発生します。しかも利用料は米ドル建てであるため、為替リスクも存在します。デジタル庁の検証調査によると、回答団体の約96%が設定想定為替レートとして1USD=150円以上(調査時点の支出官レートより高い水準)を見込んでおり、円安が続く状況では実質的なコスト増が発生します。
AWS1社への集中は「ベンダーロックイン」のクラウド版を生み出しています。AWSの技術仕様・API・マネージドサービスに最適化されたシステムは、他のCSPへの移行が困難です。
日経xTECHが指摘するように、マルチクラウドをうたいながら事実上の「クラウドロックイン」が生じており、将来的な価格交渉力や競争環境の維持が困難になる懸念があります(出典: 日経xTECH「運用コスト増にAWS寡占、ガバメントクラウド推進法案の陰で」)。
2023年11月時点のデジタル庁集計によると、本番アカウント175件のうちAWSが162件(93%)を占めていました。内訳は以下の通りです(出典: 日経xTECH「次年度ガバメントクラウド利用料約150億円をデジ庁が負担」)。
| CSP | 本番アカウント数 | 割合 |
|---|---|---|
| Amazon Web Services | 162 | 92.6% |
| Oracle Cloud Infrastructure | 3 | 1.7% |
| Google Cloud | 8 | 4.6% |
| Microsoft Azure | 2 | 1.1% |
その後、自治体の移行が進んだ2025年時点の最新データでは、自治体が利用・検討するCSPの96.4%がAWS(1,347/1,397自治体)になっており、集中度はむしろ高まっています。
pie
title ガバメントクラウド利用自治体のCSP選択(2025年)
"AWS" : 96.4
"その他外資CSP" : 3.6
2026年3月27日、さくらインターネットの「さくらのクラウド」がガバメントクラウドの全技術要件を充足し正式認定されました(出典: デジタル庁「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービスの提供 令和8年度募集 審査結果」2026年3月27日)。
これは歴史的な転換点です。朝日新聞によると「日本企業として初の正式採用」であり、松本尚デジタル相は「国外も国内も含めて競争を促す」と述べています。産経新聞は「米IT独占に風穴」「資金流出の歯止め期待」と評しました。
ただし、構造的な変化には時間がかかります。現時点でさくらのクラウドを選択できるのは新規移行案件のみであり、すでにAWSに移行済みの自治体がさくらのクラウドに切り替えるには追加の移行コストが必要です。
さくら参入の実質的な効果が現れるのは、令和8年度(2026年度)以降の新規調達からということになります。GCInsightのクラウド別ベンダー比較(/cloud)では、各CSPの選択状況を自治体単位で確認できます。
外資依存に関して、デジタル庁は以下の対策を講じています(内閣府・デジタル庁「国と地方のシステムワーキング・グループ」資料より)。
ただし前述の通り、これらは米国法に基づく要求を法的に無効化するものではありません。データ主権(データ・ソブリンティ)の観点から、国産クラウドへの移行が長期的な解決策として求められています。
はい、2026年3月の正式認定以降、さくらのクラウドは令和8年度(2026年度)調達分から正式に選択可能です。ただし、すでにAWSで稼働中のシステムを移行する場合は、移行コストと技術的難易度を考慮する必要があります。新規システム構築や更改のタイミングで選択肢として検討することが現実的です。
議会への説明では、3つの観点が有効です。①米国法に基づくデータ開示リスク(ゼロではないが保証なし)、②為替リスク(円安が進むと利用料が実質増加)、③競争環境の喪失(ロックインによる将来の価格交渉力低下)。これらを定量的なデータとともに示すことで、外資依存リスクの全体像を伝えられます。
デジタル庁は、令和8年度の新規調達においてさくらのクラウドを正式採択したほか、共同提案(複数のCSPを組み合わせた提案)を認める仕組みを導入しています。また、技術要件の見直しについても継続的に議論されており、国産クラウドの競争力強化が政策課題として認識されています。
デジタル庁がAWSと交渉した大口割引・長期継続割引が適用されているため、個別に契約するより安価です。ただし、2025年度から自治体負担に移行しており、円安・ドル高が続く場合は利用料の実質増加が見込まれます。GCInsightのコスト比較ページ(/costs)で、自治体別の移行前後コスト比較データを参照できます。
ガバメントクラウドにおけるAWS寡占は、①高度すぎる技術要件による参入障壁、②補助金インセンティブによるガバクラ誘導、③初期採択者のデファクト化という3つの構造的要因が重なった結果です。96.4%という依存率は、単なる市場シェアの問題ではなく、国民の個人情報を管理する公共インフラの安全保障上のリスクを内包しています。
2026年3月のさくらのクラウド正式認定は、この構造に対する最初の変化の兆しです。ただし、すでに移行済みの1,300以上の自治体がAWSを使い続ける現実は短期間では変わりません。中長期的には、技術要件の合理化・国産クラウドへの移行支援・競争環境の維持という3つのアプローチが求められます。
自治体のガバメントクラウド選択状況を都道府県別・クラウド別に確認するには、GCInsightのダッシュボード(gcinsight.jp)をご覧ください。また、移行状況全般は移行遅延リスク一覧(/risks)でも確認できます。
無料ニュースレター — 毎週金曜
この記事の続報・関連データを見逃さない。週1・5分のガバクラ週報。
2026年3月27日、さくらのクラウドがデジタル庁の全305項目の技術要件をクリアし正式認定。外資4社独占が崩れた背景、条件付き採択から2年4か月の開発軌跡、そして自治体担当者がさくらを選ぶ際に確認すべき実務ポイントを一次資料で徹底解説します。
2026-04-18ガバメントクラウドの認定(採択)を受けるには、デジタル庁が定めた305項目の技術要件を満たす必要があります。現在採択されている5社の顔ぶれと、さくらのクラウドが2026年3月に正式認定を受けるまでの経緯を公式資料で徹底解説します。
2026-04-15ガバメントクラウド認定CSP5社(2026年4月時点)を徹底比較。AWSが自治体シェア約74%を占める理由、およびAzure・OCI・さくらインターネット各社の認定状況と自治体選択のポイントをデジタル庁公式データで解説。
2026-04-12