
ガバメントクラウドの共同利用方式と単独利用方式の違いをデジタル庁第3.0版公式文書から解説。権限管理・運用負担・コスト按分の3軸で比較し、自治体規模別の選択基準と2026年の最新動向をまとめます。
ガバメントクラウドへの移行を検討する自治体担当者が必ずぶつかる問いがあります。「共同利用方式と単独利用方式、どちらを選べばよいのか」という問いです。
2025年3月にデジタル庁が改定した「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用について(第3.0版)」では、デジタル庁として共同利用方式の選択を「推奨」すると明記しています(出典: デジタル庁 ガバメントクラウドの利用に関する文書 第3.0版)。
しかし実際には、自治体の規模・庁内のITスキル・選定するASPによって、どちらの方式が適切かは異なります。本記事では両方式の定義と仕組みを公式文書に基づいて整理したうえで、実務上の選択基準を解説します。
ガバメントクラウドを利用するにあたって、地方公共団体には2つの方式が用意されています。どちらの方式を選択するかは、CSP(クラウドサービス事業者)のシステムを「誰が直接管理するか」という点で大きく異なります。
flowchart TD
DC["デジタル庁\n利用権付与"] --> LG["地方公共団体\n(利用権保有)"]
LG --> A["単独利用方式\n自治体が運用管理主体"]
LG --> B["共同利用方式\n運用管理補助者に委託"]
A --> CSP1["CSP環境\n(自治体が直接管理)"]
B --> AUX["ガバメントクラウド\n運用管理補助者"]
AUX --> CSP2["CSP環境\n(複数自治体が共用)"]
単独利用方式は、地方公共団体が自ら「ガバメントクラウド個別領域利用権限」を行使し、クラウド環境のサービスを直接運用管理する方式です(出典: デジタル庁 ガバメントクラウドの利用に関する文書)。
この場合、地方公共団体はガバメントクラウド運用管理補助委託契約を事業者と締結したうえで、その事業者にクラウド環境の運用管理の「補助」を委託することは可能です。ただし、システム全体の責任者はあくまでも自治体であり、以下の業務は自治体が判断・決定します。
単独利用方式では、AWSアカウントの権限が自治体職員にも払い出されます。自治体側に一定のクラウドリテラシーを持つ職員が必要となる点が、共同利用方式との根本的な違いです。
共同利用方式は、複数の地方公共団体が同一のガバメントクラウド運用管理補助者に対して、クラウドサービス等の運用管理業務を委託する方式です。「複数の地方公共団体による委託が予定される場合の当初の一の地方公共団体による委託の場合を含む」と規定されており、最初は1自治体からスタートして後で複数に拡大する形も想定されています(出典: デジタル庁 第3.0版)。
共同利用方式においては、ガバメントクラウド運用管理補助者のみにCSPアカウントの権限が払い出されます。自治体側はASP(業務アプリケーション事業者)が提供するアプリケーションを選択し、そのアプリケーションが必要とするクラウドサービスの運用管理を補助者に委ねます。
デジタル庁の公式文書では、共同利用方式のメリットとして3点が明示されています。この3点が、両方式の本質的な違いを表しています。
| 比較軸 | 単独利用方式 | 共同利用方式 |
|---|---|---|
| 権限管理 | 自治体職員にもAWSアカウント権限が付与 | 運用管理補助者のみに権限付与 |
| 手続き | デジタル庁との手続きを自治体が担当 | 手続き上はデジタル庁が補助者に直接アクセス可能(簡素化) |
| 運用形態 | カスタマイズ自由・自治体主導 | 補助者提案の方法を複数自治体が選択(既製品的な利用) |
| 運用負担 | 自治体側の担当者スキルが必須 | 補助者が複数自治体分をまとめて効率的に処理 |
| コスト構造 | 自治体の規模・システム数次第 | 複数自治体による按分でスケールメリット発生 |
| デジタル庁の推奨 | 可能だが推奨はしていない | 明示的に推奨 |
単独利用方式では、クラウド環境に関する各種手続きは自治体を経由して行われます。一方、共同利用方式では地方公共団体が直接クラウド環境の運用管理を行わないことを前提として、手続き上はデジタル庁が運用管理補助者において直接クラウド環境およびクラウドサービスを運用管理できるよう措置することとし、関係者間での手続きを簡素化します(出典: デジタル庁 第3.0版)。
自治体のIT部門が担う手続き工数を大幅に削減できる点が、共同利用方式の実務上の大きな利点です。
共同利用方式を採用した場合、地方公共団体はASPから提供を受けるアプリケーションを選択し、当該アプリケーションの利用に必要なクラウドサービスの運用管理業務をガバメントクラウド運用管理補助者に委ねることで、地方公共団体は既製品のシステムを利用するのに類似した利用形態を採用することが可能となり、運用管理の負担を軽減できることが期待されます。
つまり、共同利用方式は「クラウドの専門知識をそれほど持たない自治体でも、通常のパッケージシステムを使うような感覚でガバメントクラウドを活用できる」という設計になっています。人材不足が深刻な中小規模自治体にとって、この点は非常に重要なメリットです。
共同利用方式においては、ガバメントクラウド運用管理補助者があらかじめ運用管理業務の方法等を提案してそれを複数の地方公共団体が選択することで、複数の地方公共団体の運用管理業務を効率的にまとめて行うことが可能となります。
複数自治体がIaCや監視ダッシュボードなどの運用ツールを共通化することで、構築の初期費用や保守工数が削減されます。このコスト按分効果こそが、共同利用方式における経済的なメリットの源泉です。なお、GCInsightのコスト分析データでは、自治体別のクラウド利用費用の傾向を確認できます。
デジタル庁は「ガバメントクラウドおよび地方公共団体の標準準拠システム等の効率的な運用の観点から」と明記したうえで、共同利用方式の選択を推奨しています(出典: デジタル庁 第3.0版)。
この推奨の背景には、全国約1,700の地方公共団体が2025年度末という期限に向けて一斉にガバメントクラウドへ移行するという日本特有の状況があります。
全国の自治体が単一のマルチテナント基盤を共用することで、ライセンスやコンピュートリソースの調達におけるバイイングパワーが最大化され、個別や地域単位で整備するよりも低廉な利用料を実現できます(出典: デジタル庁 地域・社会基盤に関する政策等の骨子 第3版 2026年3月)。
地域ごとに似たような管理機能や監視センターを重複して構築する無駄(二重投資)を国レベルで排除できるという効果も、自治体のアンケート回答として複数確認されています。
注意すべき点として、単独利用方式と共同利用方式は排他的な選択肢ではなく、業務システムによって使い分けることができます。
地方公共団体は、ガバメントクラウド単独利用方式若しくはガバメントクラウド共同利用方式のいずれか又は両方を合わせた方式によりガバメントクラウドを利用することができる(出典: デジタル庁 第3.0版)
たとえば、基幹業務系(住民記録、税務など)は共同利用方式で複数自治体と共用しつつ、独自に内製開発した業務支援ツールについては単独利用方式を選ぶ、という組み合わせが実務では発生します。
推奨構成(Azure編)でも「業務システムによって利用方式が異なる場合は、左記のパターンを組み合わせた契約関係となる」と明示されており、ハイブリッドな運用が想定されています(出典: デジタル庁 ガバメントクラウド利用における推奨構成(Azure編))。
では、実務的にどう選ぶべきか。デジタル庁は共同利用方式を推奨していますが、自治体の実態に応じた判断が必要です。以下の軸で検討することを推奨します。
flowchart TD
S["利用方式の検討開始"] --> Q1{"庁内にクラウド\n運用スキルがあるか?"}
Q1 -->|はい| Q2{"独自カスタマイズや\n細かい権限管理が必要?"}
Q1 -->|いいえ| B["共同利用方式\n(強く推奨)"]
Q2 -->|はい| A["単独利用方式\n(または併用)"]
Q2 -->|いいえ| B
| 自治体の特性 | 推奨方式 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 人口5万人未満の小規模自治体 | 共同利用 | IT担当者が少なく、クラウド専門スキルの内製化が困難 |
| 人口20万人以上の中核市 | 共同利用または併用 | 基幹業務は共同利用、独自業務は単独利用で使い分け可 |
| ITスキルを持つ職員がいる大都市 | 単独利用も検討可 | 細かな権限管理・コスト最適化を内製でコントロール可能 |
| 複数自治体と広域連携を予定 | 共同利用 | 同一補助者による一括管理でスケールメリット最大化 |
| 独自開発システムが多い | 単独利用(部分的に) | ASP経由では対応できない独自仕様が存在する場合 |
デジタル庁の推奨構成においても、「コスト按分効果を考慮し、地方公共団体がガバメントクラウド共同利用方式を採用してガバメントクラウドを利用することを前提とする。単独利用方式を採用する場合は、共同利用方式に固有の考慮事項を除いた部分的なアーキテクチャを参考とすることができる」とされており、設計の起点として共同利用方式が置かれています(出典: デジタル庁 推奨構成(Azure編))。
共同利用方式を選択した場合の契約関係は、以下のプレイヤーが関与します。デジタル庁の第3.0版には6本の主要契約関係が明示されています。
| 契約 | 当事者 |
|---|---|
| クラウドサービス基本契約等 | デジタル庁 ↔ CSP |
| ガバメントクラウド利用権付与兼債務引受契約 | デジタル庁 ↔ 地方公共団体 |
| ガバメントクラウド運用管理補助委託契約 | 地方公共団体 ↔ 運用管理補助者 |
| アプリケーション等の提供・保守契約 | 地方公共団体 ↔ ASP |
| 回線運用管理補助委託契約 | 地方公共団体 ↔ 回線運用管理補助者 |
| 専用回線等の提供保守契約 | 地方公共団体 ↔ 通信回線事業者 |
なお、2025年の第216回国会にて、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル行政推進法)が一部改正され、国以外の者がCSPに支払うべきクラウドサービス利用料についてデジタル庁が地方公共団体から納付を受けた上でCSPに払い渡す旨の規定が整備されました(同法第24条第1項)。この改正により、共同利用方式における資金フローの法的根拠が明確化されています(出典: デジタル庁 第3.0版)。
共同利用方式のコスト効果は、参加する自治体の数とシステム規模によって変動します。詳細な損益分岐点の試算については、GCInsightのコスト比較記事で解説していますが、ここでは基本的な考え方を整理します。
共同利用方式でコストが下がる主なメカニズムは以下の3点です。
一方で、共同利用方式には一定のトレードオフもあります。複数自治体が同じ構成を使うため、カスタマイズの自由度は単独利用方式に比べて低くなります。特定の独自業務フローを持つ自治体にとっては、ASPが提供する標準機能の範囲内での業務設計が求められます。
コスト削減の具体的な事例については、GCInsightの共同利用コスト削減事例記事で詳しく紹介しています。
2025年度末を期限とするガバメントクラウドへの移行は、全国の多くの自治体で遅延が発生しています。GCInsightの移行状況ダッシュボードでリアルタイムデータを確認できますが、遅延自治体の多くは単独利用方式を模索していた、あるいは方式の選択自体が決まっていなかったケースが含まれます。
デジタル庁は移行スケジュールの弾力化を認めており、当面は「特定移行支援」の対象になりうる自治体も存在します。詳細は遅延自治体リスク分析をご覧ください。
Q1. 共同利用方式を選ぶと、どのASPでも使えるのですか?
共同利用方式を選択した場合、ASPが提供するアプリケーションの選択は地方公共団体が行います。ただし、選定するASPがガバメントクラウド上でサービスを提供しているかどうかを確認する必要があります。APPLICが公表する準拠登録製品一覧(www.applic.or.jp)で確認できます。
Q2. 単独利用方式から共同利用方式に途中で切り替えることはできますか?
技術的には可能です。デジタル庁の文書でも両方式の組み合わせが認められています。ただし、契約関係が変わるため、既存の運用管理補助委託契約の変更手続きが必要です。移行コストの試算を含めて、事前に運用管理補助者候補と相談することを推奨します。
Q3. 共同利用方式を選んだ場合、他の自治体のデータと混在してしまうのでは?
ガバメントクラウドは複数自治体がクラウド環境を共用しますが、各自治体のデータは論理的に分離(アカウント分離またはネットワーク分離)された形で管理されます。デジタル庁の推奨構成ではアカウント分離方式とネットワーク分離方式の2パターンが示されており、自治体のセキュリティ要件に応じて選択します(出典: デジタル庁 推奨構成(Azure編))。
ガバメントクラウドの共同利用方式と単独利用方式について、主要な違いをまとめます。
デジタル庁の推奨方針・推奨構成のいずれにおいても、共同利用方式を起点とした設計が前提となっています。特に人材・予算が限られる中小規模自治体では、共同利用方式がリスクの低い選択肢といえます。
自治体ごとの移行状況や、ガバメントクラウドにおけるベンダー・パッケージの選択肢については、GCInsight(gcinsight.jp)のダッシュボードおよびパッケージ一覧(/packages)で確認できます。自治体のシステム担当者やSIerがベンダー選定の参考としてご活用ください。
無料ニュースレター — 毎週金曜
この記事の続報・関連データを見逃さない。週1・5分のガバクラ週報。
デジタル庁2026年2月公表(2025年12月末時点)データによると、全20業務が完了した自治体はわずか65団体(3.7%)。935団体(52.3%)が遅延中のガバメントクラウド移行を都道府県別データで詳解。遅延原因と2030年度完了に向けた対策を自治体DX担当者向けに解説します。
2026-04-192026年3月27日、さくらのクラウドがデジタル庁の全305項目の技術要件をクリアし正式認定。外資4社独占が崩れた背景、条件付き採択から2年4か月の開発軌跡、そして自治体担当者がさくらを選ぶ際に確認すべき実務ポイントを一次資料で徹底解説します。
2026-04-18ガバメントクラウドの共同利用方式と単独利用方式の違いを公式基準に基づいて解説。デジタル庁が共同利用を推奨する3つのメリット、単独利用が適するケース、自治体規模別の選択指針を2026年版データで整理します。
2026-04-17