
ガバメントクラウドの共同利用方式と単独利用方式の違いを公式基準に基づいて解説。デジタル庁が共同利用を推奨する3つのメリット、単独利用が適するケース、自治体規模別の選択指針を2026年版データで整理します。
ガバメントクラウドへの移行を検討する自治体担当者から「共同利用方式と単独利用方式、どちらを選べばよいか」という質問が増えています。2025年3月にデジタル庁が改訂した「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用について(第3版)」では、共同利用方式を「推奨」と明記しており、方式選択は移行計画の根幹を左右します。本記事では、一次ソースに基づき両方式の定義・メリット・選択基準を整理します。
ガバメントクラウドとは、デジタル庁が調達・整備し、地方公共団体が標準準拠システム等を利用できるよう提供するクラウドサービスです(デジタル行政推進法第23条第1項)。地方公共団体はCSP(クラウドサービス提供事業者)と直接契約するのではなく、デジタル庁を経由して「ガバメントクラウド利用権」の付与を受ける仕組みです(利用権付与契約第五条第一項)。
この利用権を行使する方式として、次の2種類が定められています。
地方公共団体が自ら、または委託した事業者(ガバメントクラウド運用管理補助者)を介して、自団体専用のクラウド環境を運用管理する方式です。自団体の職員もAWSアカウント等の権限を持ち、ユーザー管理・アクセス制御・コスト最適化の判断を団体が主体的に行います(出典: デジタル庁「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用について(第3版)」2025年3月)。
複数の地方公共団体が同一のガバメントクラウド運用管理補助者に運用管理業務を委託し、一つのクラウド環境を共同で利用する方式です。運用管理補助者があらかじめ運用方法を提案し、複数の自治体がそれを選択する形態を採ります。ベンダー側(運用管理補助者)がAWSアカウント等の権限を持ち、地方公共団体は実質的に「既製品のシステムを利用する」感覚で運用できます(出典: 同上、利用権付与契約第二十九条第一項)。
下図は両方式の構造的な違いを示しています。
flowchart TD
A["デジタル庁\n(利用権付与)"] --> B["地方公共団体\n(利用権保有)"]
B --> C{"方式選択"}
C -->|単独利用| D["自団体で環境管理\n運用管理補助者に委託可"]
C -->|共同利用| E["複数団体で\n同一補助者に委託"]
D --> F["自団体専用クラウド環境"]
E --> G["共同クラウド環境\n(スケールメリット)"]
デジタル庁はガバメントクラウドの効率的な運用の観点から、共同利用方式を選択することを明確に推奨しています(出典: デジタル庁「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用について(第3版)」2025年3月)。その理由として公式文書が挙げる3つのメリットを整理します。
単独利用方式では、地方公共団体が利用権のもとで直接クラウド環境の運用管理を行います。これに対し共同利用方式では、デジタル庁が地方公共団体を介さず、直接ガバメントクラウド運用管理補助者においてクラウド環境を運用管理できるよう措置します。その結果、デジタル庁と自治体と補助者の3者間での手続きが簡素化されます。
共同利用方式を採用した場合、地方公共団体はASP(業務アプリケーション提供事業者)から提供を受けるアプリケーションを選択し、そのクラウドサービス運用管理業務をガバメントクラウド運用管理補助者に委ねます。結果として、地方公共団体は「既製品のシステムを利用するのに類似した利用形態」を採用でき、クラウド技術の専門知識がなくても運用負担を大幅に軽減できます。
運用管理補助者があらかじめ運用管理業務の方法等を提案し、複数の地方公共団体がそれを選択することで、複数団体の運用管理業務を効率的にまとめて処理できます。IaC(Infrastructure as Code)やモニタリングダッシュボードの共通化により、初期構築コストと運用工数の削減が期待されます。
なお、デジタル庁による推奨構成文書(2026年3月版「ガバメントクラウド利用における推奨構成(Azure編)」等)でも「コスト按分効果を考慮し、地方公共団体が共同利用方式を採用することを前提とする」と明記されています。
共同利用方式が推奨されている一方、デジタル庁は「スクラッチ開発等、共同利用方式を取りにくい開発形態の場合を除き」という留保を設けています(出典: 総務省「地方公共団体情報システムの整備及び管理に係る標準化基本方針」2024年12月)。
単独利用方式が有利になる条件を以下の表に整理します。
| 条件 | 単独利用 | 共同利用 |
|---|---|---|
| スクラッチ開発・独自システム構築 | 適合 | 不向き |
| クラウド技術の内製チームがある | 適合 | どちらでも可 |
| 政令市・都道府県など大規模団体 | 適合 | どちらでも可 |
| 標準パッケージ(ASP)を利用 | 非効率 | 適合 |
| 小規模市町村・クラウド未経験 | リスク高 | 強く推奨 |
| 複数業務で同一補助者を使う予定 | どちらでも可 | コスト優位 |
実際に、大規模自治体(政令指定都市など)では、独自の情報システム部門がクラウド技術者を確保できるため単独利用を選択するケースもあります。一方で、人口5万人未満の小規模市町村では、クラウド専門知識を持つ職員の確保が困難なため、共同利用方式によって補助者に任せる方が現実的です。
重要な点として、単独利用と共同利用は択一ではなく、業務システムごとに組み合わせて利用可能です。例えば、住民基本台帳系は共同利用方式(ASPパッケージを活用)、独自開発した行政内部システムは単独利用方式という構成が認められています(出典: デジタル庁「ガバメントクラウド利用における推奨構成(Azure編)」2026年3月)。
方式選択の判断フローとしては、以下を参照してください。
flowchart TD
A["ガバメントクラウド移行を検討"] --> B{"標準準拠システム\n(パッケージASP)を\n利用するか?"}
B -->|はい| C["共同利用方式を優先検討"]
B -->|いいえ| D{"スクラッチ開発や\n独自システムか?"}
D -->|はい| E["単独利用方式を検討"]
D -->|いいえ| C
C --> F["運用管理補助者の\n提案を比較選定"]
E --> G["内製チームまたは\n運用管理補助者を確保"]
ガバメントクラウドの利用にあたっては、デジタル庁・地方公共団体・CSP・ガバメントクラウド運用管理補助者・ASP・回線運用管理補助者・通信回線事業者の間で主に6本の契約が締結されます(出典: デジタル庁「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用について(第3版)」2025年3月)。
| 契約名称 | 当事者 |
|---|---|
| クラウドサービス基本契約等 | デジタル庁 ⇔ CSP |
| ガバメントクラウド利用権付与兼債務引受契約 | デジタル庁 ⇔ 地方公共団体 |
| ガバメントクラウド運用管理補助委託契約 | 地方公共団体 ⇔ 運用管理補助者 |
| アプリケーション等の提供・保守契約 | 地方公共団体 ⇔ ASP |
| 回線運用管理補助委託契約 | 地方公共団体 ⇔ 回線運用管理補助者 |
| 専用回線等の提供保守契約 | 地方公共団体 ⇔ 通信回線事業者 |
なお、2025年の通常国会(第216回)において、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律の一部改正(令和7年法律第4号)が成立し、国以外の者のクラウドサービスの共同利用に係る金銭の保管に関する規定が整備されました(デジタル行政推進法第24条第1項)。デジタル庁がCSPへのクラウドサービス利用料支払いを代行できる仕組みが法的に整備されたことで、共同利用方式の実務手続きがさらに簡素化されています。
2026年度末を目標とするガバメントクラウドへの移行期限が近づく中、多くの自治体が共同利用方式での移行を加速しています。デジタル庁が実施した令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業では、美里町・川島町など複数の自治体グループが共同利用方式を前提とした事業計画書を提出しており、小規模自治体における共同利用方式の実態が蓄積されつつあります(出典: デジタル庁「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業 事業計画書」2026年3月)。
自治体のガバメントクラウド移行進捗状況については、GCInsightの移行ダッシュボードでリアルタイムデータを確認できます。また、移行方式の選択に関連するリスク情報やコスト効果データも参照してください。
Q1. 共同利用方式を選んだ場合、自治体はクラウドの設定変更ができなくなりますか?
共同利用方式では、ガバメントクラウド運用管理補助者が運用管理の主体となりますが、業務上の設定変更はASPを通じて行うことができます。ただし、クラウド基盤レベルの直接操作は補助者に委ねる形となるため、独自カスタマイズの自由度は単独利用方式より低くなります。標準パッケージ(ASP)の機能範囲内でのシステム利用が前提となります。
Q2. 単独利用方式から共同利用方式への切り替えは可能ですか?
技術的には可能ですが、クラウド環境の再構成や運用管理補助者の変更を伴うため、相当の工数と費用が発生します。移行計画の初期段階で方式を決定し、変更が生じないよう慎重に検討することが推奨されます。
Q3. 共同利用方式を選んだ場合、セキュリティはどう担保されますか?
共同利用方式では、各地方公共団体のデータは「ガバメントクラウド個別領域」として論理的に分離されます。ガバメントクラウドはISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)登録クラウドサービスを条件としており、データ保管は国内に限定されます。各補助者はデジタル庁の定める技術要件を満たすことが求められます。
Q4. 標準準拠システム以外の独自業務システムもガバメントクラウドで動かせますか?
標準準拠システム(住民基本台帳、税務、福祉等の20業務)が主な対象ですが、それ以外の独自業務システムについても、各自治体の判断でガバメントクラウドを利用することは妨げられていません。ただし、標準化法第10条の努力義務は標準準拠システムに係るものです。
ガバメントクラウドの共同利用方式と単独利用方式の選択は、標準パッケージ(ASP)の利用予定有無と、自団体のクラウド技術力を軸に判断することが重要です。デジタル庁は「スクラッチ開発等を除き」共同利用方式を推奨しており、特に小規模市町村では運用負担軽減の観点から共同利用方式が現実的な選択肢です。
自治体の移行状況や他団体の選択事例については、GCInsight(gcinsight.jp)で都道府県・規模別のデータを参照できます。方式選択の検討段階でぜひご活用ください。
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