
ガバメントクラウド移行後に運用費が平均2.3倍に膨らんだ実態を中核市市長会データで解説。8,956システムが遅延した原因・Replatform手順・GCASアカウント申請から移行完了までの全ステップを2026年最新のデジタル庁手順書(第3.0版)をもとに整理します。
「ガバメントクラウドへ移行すれば運用費を3割削減できる」——そう聞かされていた自治体情報担当者の期待は、2025年度末を前に大きく裏切られています。中核市市長会の調査によると、移行後の運用経費は平均2.3倍に増加しており、5割以上の自治体で2倍超の負担増が報告されています(出典: 日経クロステック「『話が違う』自治体システム標準化、運用費3割減は幻想か」)。
一方で、移行期限の2025年度末(2026年3月末)を迎えた現在、対象34,592システムのうち8,956システム(25.9%)が「特定移行支援システム」として2026年度以降への移行先送りが確定しました(出典: デジタル庁2025年12月末時点の移行状況)。1,788団体のうち935団体(52.3%)が少なくとも1つの遅延システムを抱えています。
なぜコストが増え、なぜ移行が遅れたのか。そして、残された自治体はこれから何をすべきか。本記事では、デジタル庁手順書(第3.0版)およびGCASガイドの一次情報をもとに、2026年時点の正しい移行手順とコスト対策を整理します。
ガバメントクラウド移行には大きく3つのパターンがあります。
| 移行パターン | 概要 | コスト傾向 |
|---|---|---|
| Relocate(VM持ち込み) | 既存VM・コンテナをそのままクラウドへ | 初期は安いが最適化困難 |
| Rehost(リフト&シフト) | アプリを変更せずにクラウドへ移行 | 短期は安価、運用費は高止まりしやすい |
| Replatform(部分改修移行) | DB等の一部をマネージドサービスに置き換え | 初期コスト大、運用費削減効果が高い |
(出典: デジタル庁「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業 事業計画書」)
2025年度末に向けて多くの自治体がRehost(リフト&シフト)で急ぎ移行を完了させました。しかし、リフト&シフトはオンプレミスと同じ構成をクラウド上で動かすため、クラウドの使用量課金特性を活かしきれず、クラウド利用料が固定費のように膨らむことになりました。
デジタル庁の検証事業に参加した須坂市のデータによると、ガバメントクラウドへリフトしたシステムのランニングコストは移行前より**約2,300万円増加(+5%)**しており、「クラウド最適化が十分に行えていないためクラウド利用経費の削減に至っていない」と評価されています(出典: 令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業 報告書)。
標準準拠システムの業務パッケージを提供するベンダーは限定されており、各自治体が選べる余地は実質的に小さい状況です。
「2025年度末までに移行することとされているため、ベンダーにも新規顧客の移行を担う余裕がない」(出典: 日経クロステック 2024年報道)
競争環境がなければコスト交渉は成立しません。ガバメントクラウド上で提供されるパッケージ製品の利用料値上げが相次ぎ、自治体が支払うトータルコストを押し上げています。
総務省の移行経費調査(出典: 総務省 自治体情報システム標準化の移行経費支援の状況)によれば、2026年度末までに必要な移行経費の累計予算措置額は7,742億円に達しています。
主要な経費増加要因として以下が挙げられています。
基金の設置年限は当初より5年延長され、令和12年度(2030年度)まで延長する法案が第217回通常国会で成立しました。
特定移行支援システムを抱える935団体、および2026年度以降に移行作業を継続する自治体向けに、現時点での正しい移行フローを整理します。
flowchart TD
A["① 移行計画立案\nシステム選定・ベンダー選定"] --> B["② GCASアカウント取得\n職場メールで申請・電子署名付与"]
B --> C["③ 見積登録・利用申請\nGCAS上で環境申請"]
C --> D["④ 環境払い出し\n本番/検証環境のテンプレート適用"]
D --> E["⑤ 回線手配・開通確認\n接続・パフォーマンス確認"]
E --> F["⑥ 移行作業実施\nRehost/Replatformの選択"]
F --> G["⑦ 本番稼働・運用最適化\nコスト監視・FinOps導入"]
標準準拠システムへの移行は「計画立案」「システム選定」「移行」の3フェーズで進みます(出典: 総務省 地方公共団体情報システム標準化手順書)。移行時期の選択は以下の2パターンから選びます。
パターン1は現行契約の違約金・リース残債が不要なケースが多い一方、業務ごとに移行時期が分散して管理コストが増える点に注意が必要です。
GCAS(Government Cloud Account Service)はガバメントクラウドへのオンボーディングツールです。利用開始の第一歩として、システム管理者がGCASへユーザー登録を行います。
申請の際は職場メールアドレスを使用し、ガバメントクラウドチームが用意する電子署名を付与した様式の添付が必要です。申請が承認されると、GCASアカウントがメールで通知されます(出典: GCASガイド「8. 利用の全体の流れ」)。
GCASアカウント取得後、システムのクラウド利用料見積もりをGCASに登録し、環境申請を行います。なお、ガバメントクラウド運用管理補助に係る費用の登録が別途必要となる場合があるため、アプリケーション提供契約と運用管理補助契約を一体化する場合は、それぞれの費用の内訳が判別できるよう事業者と事前に調整しておくことが重要です(出典: デジタル庁手順書 第3.0版)。
申請された情報に基づき、利用開始日前に環境が払い出されます。各地方公共団体または委託事業者(ガバメントクラウド運用管理補助者)が、デジタル庁が提供する必須適用テンプレートを適用します。
AWSの場合は「CLIとService Catalog」の2種類の適用方法があります。Terraformテンプレートが提供されており、変更可能なパラメータ以外の記述変更は認められていません(出典: GCASガイド「ガバメントクラウド利用概要 Google Cloud編」)。
移行計画時に計画した構成のとおり、各拠点間でネットワーク接続が確立されているかを確認します。主な確認項目は以下のとおりです(出典: デジタル庁手順書 第3.0版)。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 接続確認 | 計画どおりのシステム構成で各拠点間のデータ送受信が問題なく行われること |
| 回線パフォーマンス確認 | 計画時想定の応答時間・データ転送が処理できること |
移行パターンの選択は、2026年以降の運用コストを大きく左右します。
**Rehost(リフト&シフト)**は移行リードタイムが短く、2025年度末という期限に追われた自治体が多く採用しました。しかし移行後のクラウド利用料が高止まりするリスクが高い方式です。
Replatformは、データベースをRDSやCloud SQLなどのマネージドサービスに置き換え、運用自動化を組み込む手法です。GCASガイドでは各CSP向けのReplatformノウハウが2026年4月時点で大幅に拡充されています。
Replatformへの移行では、AzureではReplatform(R1)を「2段階移行の第一段階」として位置づけ、最終的にRebuild(クラウドネイティブ化)を目指す考え方が示されています(出典: デジタル庁「ガバメントクラウド利用における推奨構成 Azure編」)。
デジタル庁のNote記事「ガバメントクラウドでのコスト削減の考え方」では、「クラウドは本番稼働後の運用の工夫でコスト削減を継続的に実施できる。むしろ、運用での継続的コスト削減策の方が割引率よりも高い効果を出せる」と説明されています。
移行1年目からFinOps(クラウド財務管理)の仕組みを導入し、以下の観点で継続的な最適化を実施することが重要です。
Replatformはリフト&シフトよりも初期コストと技術的難易度が上がるため、計画段階での検討が重要です。GCASガイドと検証事業レポートから導き出した5つのポイントを整理します。
須坂市の事例が示すとおり、リフト&シフト直後はクラウド最適化が不十分なため、経費削減効果が出にくい状態です。移行完了後6〜12カ月以内に、クラウド最適化フェーズを移行計画に組み込むことが不可欠です。
須坂市では、「事業者による共同利用ネットワークの整備により通信回線費が削減された」という実績があります。単独利用か共同利用かの選択は、通信費・クラウド利用料の双方に影響します。複数の自治体が同じベンダー・クラウドを利用する場合、共同利用方式のコスト効果を事前に試算することを推奨します。
移行計画を確定したら、GCASへのプロジェクト情報登録を早期に行うことで、環境払い出しまでのリードタイムを短縮できます。GCASアカウント取得後、利用意向・クラウド利用料調査(初回申請から約3カ月程度)を見越したスケジュール設計が必要です。
自治体側がReplatformを希望していても、パッケージベンダー側のロードマップと合致しない場合、実現が困難なケースがあります。選定段階でベンダーのReplatform対応実績・対応可能範囲を確認し、契約書に明記することが重要です。
ガバメントクラウドでは、デジタル庁が提供する必須適用テンプレートによる予防的統制と、アラートによる発見的統制の2段構えでセキュリティが担保されます。本番稼働前後はアラートが多数発生することが想定されるため、アラート内容のレビュー体制・優先付けプロセスを移行計画時点で設計しておく必要があります(出典: GCASガイド「ガバメントクラウド利用概要 Google Cloud編」)。
2025年12月末時点で「特定移行支援システム」に分類された8,956システム(全体の25.9%)を抱える935団体は、2026年度以降も移行作業を継続します。この状況において、自治体が取り得る選択肢を整理します。
flowchart TD
A["特定移行支援\nシステムに認定"] --> B{"移行難易度の\n評価"}
B --> C["標準的な延長対応\n(2026〜2027年度移行)"]
B --> D["難易度極高・\nリソースひっ迫\n(令和12年度まで延長)"]
C --> E["補助基金を活用した\n移行経費措置"]
D --> E
E --> F["移行完了・\nFinOps最適化フェーズへ"]
移行基金は令和12年度(2030年度)まで延長されており、「移行の難易度が極めて高い、事業者のリソースひっ迫など」の事情がある場合、令和8年度(2026年度)以降の移行も正式に認められています(出典: 総務省 移行経費支援の状況)。
自治体の優先すべき対応は以下のとおりです。
2026年3月27日、デジタル庁は「さくらのクラウド」(さくらインターネット株式会社)を令和8年度(2026年度)のガバメントクラウド対象クラウドサービスとして正式に採択しました。これにより、対象CSPは以下の5社となります。
| CSP | サービス名 | GCASガイド |
|---|---|---|
| Amazon Web Services | AWS | AWS技術ガイド |
| Google Cloud | Google Cloud技術ガイド | |
| Microsoft | Microsoft Azure | Azure技術ガイド |
| Oracle | Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | OCI技術ガイド |
| さくらインターネット | さくらのクラウド | 2026年度より追加 |
GCASガイドの概要説明(第3章)によると、各CSPの環境単位は以下のように定義されています(出典: GCASガイド 3. 概要)。
各CSPの特性・Replatformノウハウ・コスト管理方法はGCInsightのクラウド別ベンダー比較ページでも確認できます。
GCASアカウント申請は、職場メールアドレスと所定の電子署名様式の提出後、承認されると申請者にアカウント情報がメールで通知されます。公共SaaSへの利用申請(初回)では、申請からデジタル庁の確認完了まで3カ月程度を要することが示されています(出典: GCASガイド「ガバメントクラウドにおけるSaaS(公共SaaS)」)。標準的な環境申請についても、適切なリードタイムを考慮したスケジュールを組むことを推奨します。
義務ではありません。2025年度末の移行期限に向けては、多くの自治体がRehost(リフト&シフト)で移行を完了させており、それ自体は認められた手法です。ただし、コスト最適化の観点から、移行後のクラウド最適化フェーズを計画に組み込むことをデジタル庁は推奨しています。ReplatformはRehostの「次のステップ」として検討するアプローチも現実的です。
移行そのものへの補助(デジタル基盤改革支援補助金)は継続されていますが、移行後の恒常的な運用費増加に対する直接補助制度は2026年4月時点で未整備です。2025年6月13日のデジタル行財政改革会議では、「移行後の運用経費に係る総合的な対策」が審議されており(出典: 内閣官房資料)、今後の政策動向を注視する必要があります。
GCInsight(gcinsight.jp)では、全国1,700以上の自治体の移行進捗・遅延リスク・コスト状況をダッシュボード形式で確認できます。自治体別の詳細データは都道府県別進捗ページをご参照ください。
デジタル庁の現行方針では、特定移行支援システムの認定自体はペナルティではなく、移行が困難な事情を認定し、支援を継続するための仕組みです。ただし、認定後も自治体側で移行ロードマップを策定・提出することが求められます。認定の詳細条件はGCInsightの遅延リスク一覧で確認できます。
ガバメントクラウド移行は、2026年度においても多くの自治体にとって進行中の課題です。本記事で整理したポイントを再確認します。
詳細な一次情報はデジタル庁手順書(第3.0版)およびGCASガイドをご参照ください。自治体の移行進捗データと対策比較はGCInsight(gcinsight.jp)でも随時更新しています。
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