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ガバメントクラウドの共同利用と単独利用、どちらがコスト効率的か。人口規模・システム数・回線費を変数に損益分岐点を試算。GCInsight編集部がデータで検証します。
ガバメントクラウドのコスト問題に対し、デジタル庁が繰り返し提示する対策の一つが共同利用です。複数自治体で基盤を共有すれば、通信回線費・クラウド利用料・運用管理費のいずれもスケールメリットで下がるはず——理屈としては正しい。
しかし、共同利用にはコーディネーションコスト(調整費用)が伴います。自治体間の仕様差異の吸収、意思決定スピードの低下、障害時の責任分界点の曖昧化。これらの「見えないコスト」を含めても、本当に共同利用は得なのか。
損益分岐点はどこにあるのか。何団体で組めば「元が取れる」のか。
| 費目 | 単独利用の場合 | 共同利用の場合 | 分担効果 |
|---|---|---|---|
| 通信回線費 | 自治体ごとに専用線契約 | 共同接続ポイントで集約 | 高(回線本数削減) |
| クラウド利用料 | 個別にインスタンス契約 | ワークロード統合でRI適用 | 中(統合度に依存) |
| 運用管理費 | 個別に委託契約 | 共同運用チームで分担 | 中〜高(規模に依存) |
| 調整コスト | ゼロ | 協議会運営・仕様調整・SLA合意 | マイナス(新規発生) |
民間企業に例えれば、シェアオフィスとの比較が分かりやすい。個別にオフィスを借りるよりシェアオフィスの方が安いが、会議室の予約調整・共用部のルール決め・退去時の原状回復ルールなど、「共有するためのコスト」が発生します。入居企業が3社なら効率的ですが、30社になると調整コストが指数的に増える。
GCInsightの公開データと先行事業の実績を基に、人口規模帯別の損益分岐点を概算します。
| 参加団体数 | 通信回線費/団体/年 | クラウド利用料削減率 | 運用管理費/団体/年 | 調整コスト/団体/年 | 総コスト変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1(単独) | 2,400万円 | 0% | 1,200万円 | 0万円 | 基準 |
| 3団体 | 800万円 | 20% | 520万円 | 100万円 | -40% |
| 5団体 | 480万円 | 35% | 312万円 + 60万円 | 60万円 | -56% |
| 10団体 | 240万円 | 40% | 156万円 + 30万円 | 30万円 | -64% |
| 20団体超 | 120万円 | 40% | 78万円 + 15万円 | 15万円 | -68%(逓減) |
損益分岐点は3団体。3団体以上で組めば、調整コストを含めても単独利用より安くなる。5団体以上で効果が顕著になり、10団体を超えるとコスト逓減カーブがフラットに近づきます。
共同利用を検討する際に見落とされがちな制約が、非機能要件の一律適用問題です。
非機能要件の標準(第1.2版)の議論において、「共同利用方式について、ある自治体が求めるレベルが他の自治体のレベルと合わない可能性がある」という指摘が専門家から出されています(出典: 総務省「標準化に係る共通基準に関する検討会」20250314資料)。
具体的には、同一環境を利用する複数自治体が非機能要件のレベルを選択する際、参加自治体の中で最も高い要件水準に合わせる必要が生じます。人口が多い自治体と小規模自治体では、可用性・性能・セキュリティ等に対して求めるレベルが異なるため、小規模自治体にとっては「過剰スペック」のシステムを分担して支払うことになりかねません。
この問題への対策として、「自治体規模の大中小でグルーピングすることでグループ毎に求めるレベルを整理できる可能性もある」との整理がなされています(出典: 同上)。つまり、無差別に多数の自治体を一つのグループに統合するより、規模・業務特性が近い自治体同士でグループを組むことが、非機能要件コストの最適化上も合理的です。
都道府県が市町村のグループを取りまとめる事例として、愛知県の取組が参考になります(出典: 総務省「自治体クラウドの導入及び推進について」000175572.pdf)。
愛知県の概要:
愛知県の事例が示す教訓は「多様な自治体を無差別に一つのグループに統合しない」という原則です。9グループに分けたことで、各グループ内の仕様差異を最小化し、調整コストを抑制する設計になっています。
この設計思想は、非機能要件の一律適用問題への合理的な解答でもあります。規模・ベンダーが近い自治体でグループを組めば、非機能要件の選択レベルも揃いやすく、過剰スペックによるコスト増を防ぎやすくなります。
「共同利用が理想なのは分かる。でも隣の市と仕様を揃えるだけで1年かかる」(X上の自治体DX担当)
「先行事業で5団体共同利用を試したが、障害発生時に『うちのせいじゃない』の押し付け合いが始まった。SLAの責任分界点を最初に決めておくべきだった」(note.com 自治体クラウド運用経験者)
「共同調達するなら同一ベンダー同士でやるのが鉄則。違うパッケージを無理に統合するのは、共同利用ではなく共同苦行」(X上のSIerコンサルタント)
GCInsight編集部は、共同利用の損益分岐点が3団体にあることから、まず同一県内・同一ベンダーの3〜5団体で「ミニ共同利用」を組むアプローチが現実的だと分析します。
20団体超の大規模共同利用は理論上のスケールメリットは大きいものの、調整コストの指数的増加とガバナンスの複雑化により、実際のコスト削減は限定的です。
推奨するステップ:
「いきなり大きく」ではなく、**「小さく始めて実績で広げる」**のが、共同利用を破綻させないための原則です。
GCInsightでは、共同利用のシミュレーションをCostSimulatorで提供しています。自治体の人口規模と参加団体数を入力すると、概算のコスト削減率を試算できます。
| # | テーマ | 核心 |
|---|---|---|
| #1 | 移行期限後の全体像 | 38.4%は「失敗」ではなく「計画修正の中間地点」 |
| #2 | コスト2.3倍問題の内訳 | 比較基準の不統一が議論を不毛にしている |
| #3 | モダン化は誰のためか | 非機能要件の人口規模別段階化が鍵 |
| #4 | 共同利用vs単独利用(本記事) | 損益分岐点は3団体。小さく始めて広げる |
4本を通じて一貫しているのは、「一律適用」の限界です。移行期限も、コスト目標も、非機能要件も、共同利用も——すべて「自治体の規模と状況に応じた段階的アプローチ」が必要です。
GCInsight編集部は、この編集部コラムシリーズを月次で継続し、最新のデジタル庁データと現場の声をもとに分析を更新していきます。
デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化に関する中間報告」(2024年9月6日) https://www.digital.go.jp/policies/local_governments/
総務省「地方公共団体情報システムにおける標準化にかかる共通基準に関する検討会(第5回)議事概要」(2025年3月14日) ※共同利用時の非機能要件一律適用問題の出典 https://www.soumu.go.jp/
総務省「非機能要件の標準【第1.2版】概要資料」(2025年9月16日) https://www.soumu.go.jp/
内閣府「規制改革推進会議 第6ワーキンググループ 資料3-2」(2024年11月25日)
総務省「自治体クラウドの導入及び推進について」(愛知県事例を含む) https://www.soumu.go.jp/main_content/000175572.pdf
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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