
デジタル庁が掲げる「運用コスト3割削減」目標に対し、先行移行自治体の実証データを基に達成可能性を徹底検証。神戸市・盛岡市・せとうち3市の実績と、削減を阻む構造的課題を解説します。
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デジタル庁は、ガバメントクラウドへの移行によって政府情報システムの運用等経費を削減する方針を掲げています。その根拠となるのが「令和2年12月25日改定のデジタル・ガバメント実行計画」に盛り込まれた「2021年度(令和3年度)を目途に2013年度比・運用等経費の3割削減を目指す」という目標です(出典: デジタル庁「政府情報システムの運用コスト削減に係る取組結果(H25-R3)について」2022年10月)。
この「3割削減」は国の中央省庁向けの目標として設定されたものですが、地方公共団体においても同様の文脈でコスト削減効果が期待されており、移行を後押しする政策的根拠として広く引用されています。
では、実際に自治体がガバメントクラウドへ移行した結果、3割削減は達成できているのでしょうか。2024年度にデジタル庁が公表した先行移行団体の検証データを基に、現実を分析します。
デジタル庁は2026年3月に「ガバメントクラウド早期移行団体検証事業(令和6年度)」の成果物を公表しています(出典: デジタル庁「20260327_policies_local_goverments_goverment-cloud-report」)。この報告書では、先行移行を行った複数の地方公共団体について、現行システムを継続利用した場合(コストA)とガバメントクラウドへ移行した場合(コストB)のコスト比較が詳細に示されています。
以下は令和6年度検証における参画団体の費用対効果の実績です。
| 団体名 | 規模 | コストA(現行) | コストB(GC移行後) | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 神戸市(全機能) | 指定都市(149万人) | 約9.9億円 | 約11.7億円 | +18.0% |
| せとうち3市(倉敷・松山・高松) | 中核市 | 約6.3億円 | 約7.9億円 | +25.6% |
| 盛岡市 | 中核市(28万人) | 約11.7億円 | 約10.1億円 | -13.7% |
| 佐倉市 | 一般市 | 約10.7億円 | 約10.4億円 | -2.9% |
(出典: デジタル庁「ガバメントクラウド早期移行団体検証事業 令和6年度成果物」2026年3月27日)
この結果が示す通り、移行によってコストが削減できた団体がある一方で、コストが増加した団体も存在します。特に神戸市(+18%)やせとうち3市(+25.6%)のような大規模団体では逆にコストが増加しています。「ガバメントクラウドに移行すれば必ずコストが下がる」という認識は、実データによって否定されています。
コスト増の背景には、いくつかの構造的な要因があります。
まず既存データセンターのサンクコスト問題です。既にハードウェアを共同利用・コスト最適化している団体(例: 他自治体との共同センター利用)は、現行コストがすでに低く抑えられているため、ガバメントクラウドに移行してもそれ以上の削減余地が少なくなります。令和4年度の関係府省会議でも「既にハード等が共用化されている団体についてはランニングコストが微減又は微増という試算になった」と明記されています(出典: 関係省庁会議議事概要 2022年10月)。
次にクラウド利用経費の新規発生です。オンプレミスやデータセンター利用では発生しなかったクラウド従量課金やネットワーク接続費(LGCS回線費用)が新たに加わります。神戸市の事例では、ソフトウェア借料が従来比+104%(約3,400万円増)となっていることが確認されています。
さらに移行直後の最適化不足という問題もあります。デジタル庁のコスト削減ガイドによれば、マネージドサービスの活用・サイズ最適化・稼働時間の短縮などの施策を組み合わせることで最大64%のコスト削減も理論上可能ですが、これは移行後の継続的な運用最適化を前提とした試算です(出典: デジタル庁note「ガバメントクラウドでのコスト削減の考え方」)。移行直後の「リフト」段階ではこの最適化効果は反映されません。
flowchart TD
A["ガバメントクラウド移行"] --> B["リフト(移行直後)"]
B --> C["コスト増加リスク\nネットワーク・ライセンス費増"]
B --> D["コスト削減効果\nHW借料・DC費削減"]
D --> E["最適化フェーズ\nサイズ調整・マネージド活用"]
E --> F["最大64%削減\n(デジタル庁試算)"]
C --> G["現行より割高\n(大規模団体で発生しやすい)"]
デジタル庁は「現行の環境から3段階の削減を目指している」と説明しています(出典: 関係省庁会議議事概要 2022年10月)。
第1段階: ガバメントクラウドへの移行によりハードウェア費・データセンター費を削減 第2段階: ガバメントクラウド上の標準準拠システムによる効率的な運用(標準化による業務改革) 第3段階: マネージドサービスの活用・サイズ最適化などのクラウド最適化
つまり「3割削減」は移行直後に実現するものではなく、標準化・最適化という継続的なプロセスを経て達成される中長期の目標です。現在の先行移行団体の多くはまだ第1段階にとどまっており、「移行したがコストが増えた」という状況はある意味で予測されたものとも言えます。
令和5年度の先行事業(8団体参加)の中間報告(2024年9月公表)では、より詳細な結果が示されています。
| 団体 | 増減率 |
|---|---|
| 神戸市 | -19.2% |
| 盛岡市 | -15.7% |
| 佐倉市 | -2.3% |
| 宇和島市 | +7.5% |
| 須坂市 | +0.9% |
| せとうち3市 | +13.2% |
| 美里町・川島町 | +21.9% |
| 笠置町千(小規模) | +251.6% |
(出典: 内閣府・規制改革推進会議WG資料「shiryou3-2.pdf」2024年11月)
特に注目すべきは小規模団体(笠置町など)での大幅なコスト増です。現行インフラが非常に低コストで構成されており、ガバメントクラウドへの移行でスケールメリットが得られないためです。一方、神戸市・盛岡市は令和5年度時点では19%・15%の削減を実現しており、団体の状況によって大きく結果が分かれることが明確になっています。
GCInsightでは自治体別の移行状況・コスト効果データを継続的に収集・可視化しています。詳細はコスト効果ページをご参照ください。
3割削減の達成を難しくする本質的な要因を整理すると、以下の3点に集約されます。
1. ネットワーク接続費の新規負担 LGWAN-ASP環境(従来型)では存在しなかったLGCS(ガバメントクラウド向け接続回線)の費用が発生します。この費用は現在、国庫補助の対象となっていますが、補助期間終了後の継続コストが課題となっています。
2. パッケージベンダーのライセンス体系の未整備 標準準拠パッケージのSaaS化・マルチテナント化が進めば、1団体あたりのシステム費用は大幅に下がる見込みですが、現時点ではパッケージのクラウド最適化が十分ではなく、オンプレミス時代のライセンス単価がそのまま適用されているケースがあります。
3. 移行コストの一時負担 データ移行・設定・テストなどの初期コストは「ランニングコスト比較」には含まれない場合がありますが、実際には相当の費用が発生します。
2026年度(令和8年度)は多くの自治体が標準準拠システムへの移行を完了させる予定年度です。移行が完了してから1〜2年が経過する2027〜2028年度に、本格的な最適化フェーズに入ります。その時点で「3割削減」目標の達成度が本格的に問われることになります。
デジタル庁は令和5年度の3割削減進捗状況を踏まえ「削減実績が十分でない府省庁についてPMO機能を強化する」方針を示しています(出典: デジタル庁「3割削減のR5進捗状況も踏まえたデジタル庁及び各府省庁の取組」)。同様の仕組みを地方公共団体向けにも展開できるかが、目標達成のカギとなります。
GCInsightのリスク一覧ページでは、移行遅延・コスト増リスクの自治体別状況を可視化しています。移行コストに関する詳細な分析はコスト効果ページでも確認できます。
現時点での実証データを総合すると、以下の結論が導けます。
自治体DX担当者・首長にとって重要なのは「移行すれば3割削減される」という楽観論でも「移行するとコストが上がる」という悲観論でもなく、自団体の現状コスト構造を正確に把握し、移行シナリオ別のコスト試算を行うことです。デジタル庁が無償提供しているGCAS(ガバメントクラウド移行支援ツール)の活用も、この試算精度向上に有効です。
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