
ガバメントクラウド移行で運用コストが平均2.3倍・最大5.7倍に増加する理由を、デジタル庁公式資料に基づき5つの構造的原因で解説。政府の2025年6月対策と自治体担当者が今すぐできる対応策も網羅。
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ガバメントクラウドへの移行が「運用コスト3割削減」どころか、2〜5倍超に膨らむ事例が続出しています。中核市市長会の調査では移行後の運用経費が平均2.3倍、最大5.7倍に増加する見込みが示されており、多くの自治体DX担当者が想定外のコスト増に直面しています。
この記事では、デジタル庁の公式資料(令和6年9月中間報告・令和7年6月総合対策)に基づき、コスト増加の構造的原因と政府の対応策を整理します。
デジタル庁「令和5年度ガバメントクラウドの先行事業における調査研究 投資対効果の検証 中間報告」(令和6年9月6日公表)は、8件11団体の先行事業を分析し、費用増加の主因として以下を特定しています。
現行の自治体クラウド環境では、複数団体が同一回線を共同利用することでコストを按分できています。一方、ガバメントクラウドへ移行すると、庁舎からガバメントクラウドへの接続回線(庁内→ガバクラ、保守拠点→ガバクラ)が新規で必要となります。
先行事業の検証団体では、通信回線費が純増した事例が複数確認されています。神戸市では通信回線費が約1億1,529万円純増しています(出典: デジタル庁中間報告基礎資料、2024年9月)。
この増加は移行直後だけの問題ではなく、共同利用化や合理的な回線サービスへの切り替えを進めなければ継続します。
リフト(現行システムをそのままクラウドに移す)段階では、AWSやOCIのマネージドサービスやリザーブドインスタンス(長期継続割引)が十分に活用されておらず、クラウド利用経費が割高になりがちです。
デジタル庁の分析では、宇和島市(自治体クラウド→ガバクラ移行)でランニングコストが約3,100万円増(+8%)となっています(出典: デジタル庁中間報告基礎資料、2024年9月)。AWSのリザーブドインスタンス・セービングプランの適用は費用逓減に効果的とされており、移行直後に未適用のまま運用することがコスト増の一因です。
標準仕様書への準拠に伴い、機能追加・改修が大幅に発生し、ソフトウェア借料や保守費が増加します。特に小規模自治体では、標準化前に機能を絞って運用していたシステムを「全国標準」に合わせる必要があり、コストが膨らみます。
令和7年5月に公表されたデジタル庁の把握事例では、人口1万人程度・一般会計60億円規模のC町で、ソフトウェア借料・保守費が17百万円→29百万円(1.7倍)に増加しています(出典: 第4回国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会WT資料、令和7年5月15日)。「標準仕様準拠に伴う大幅な機能追加が要因」と自治体が説明しています。
ガバメントクラウドへ移行すると、クラウド利用料の費用按分計算・監視・運用管理など「これまでになかった業務」が発生し、運用管理補助委託費として計上されます。前述のC町では、この費用が皆増(10百万円)となっており、移行前には存在しなかったコスト項目です(出典: 第4回国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会WT資料、令和7年5月15日)。
デジタル庁2025年6月の「総合的な対策」(令和7年6月13日決定)は、費用増加の背景として「移行期限を優先した結果、現行の事業者に依存せざるを得ず、十分に競争が働いていない状況」を明示しています(出典: デジタル庁・総務省2025年6月13日公表)。見積にバッファーが上乗せされる可能性や、事業者からの費用内訳説明が不十分なケースも課題として指摘されています。
中核市市長会の調査によると、移行前の運用経費の平均は約3億3,800万円であったのに対し、移行後は約6億8,400万円(平均2.3倍)に増加する見込みです。5割以上の自治体で2倍以上の増加が見込まれており、最大で5.7倍に達するケースも報告されています。
2025年6月、東京都は都内自治体の運用経費が移行前と比べて全体で約1.6倍に増える見込みとして、国に具体的な試算根拠の提示を要請しました(出典: ITmedia NEWS、2025年6月2日)。大都市でも同様の課題が生じており、規模の大小を問わない構造的問題であることが示されています。
デジタル庁の中間報告では、神戸市・せとうち3市(倉敷市・松山市・高松市)・盛岡市・佐倉市・宇和島市・須坂市・美里町・川島町・笠置町の8件11団体が検証対象となりました。
コスト削減が実現した事例(神戸市・盛岡市等)とコスト増加となった事例(宇和島市・須坂市・せとうち3市・美里町・川島町・笠置町)が混在しており、移行構成・共同利用の有無・最適化の進捗によって結果が大きく異なることが確認されています。
神戸市はランニングコストが約1億9,100万円減(-19%)を達成した一方、宇和島市(単独利用)では通信回線費・クラウド利用経費の増加によりコスト増となっています(出典: デジタル庁中間報告、2024年9月)。
デジタル行財政改革会議は2025年4月、石破総理の指示に基づき「想定を上回る運用経費の増大については、国の責任において適切に財政措置を行う」方針を示しました。これを受けて2025年6月13日、デジタル庁・総務省は「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策」を決定しています(出典: デジタル庁2025年6月13日決定)。
見積精査支援の拡充
ガバクラ利用料だけでなく運用経費全体について、デジタル庁内にコスト最適化支援専門チームを新設しています。これまで33自治体の精査が終了し、330自治体から要望があった見積精査支援を拡充・強化します。
事業者への説明要請
ベンダーに対して見積内容を自治体に丁寧に説明するよう要請し、バッファー上乗せ・不透明な費用算定の改善を求めています。
システム運用管理の省力化・自動化推進
事業者向け勉強会・CSPイベント登壇による知識増進、最新技術活用のロードマップ・ガイドライン作成、リソース管理最適化の支援を実施します。
公共SaaSによる基盤・業務一体調達の実現
令和7年4月に公開された「ガバメントクラウドにおけるSaaS(公共SaaS)について」を踏まえ、システムと基盤を一体で調達できる公共SaaSの環境整備を推進します。人口規模等に応じた柔軟な料金設定の実現が目指されています。
ガバクラ利用料の割引交渉
CSP(AWS・OCI等)に対するガバクラ利用料の割引交渉や、共同利用のさらなる促進により、スケールメリットを引き出す取り組みを強化します。
コスト増加を最小化するために、自治体DX担当者が優先すべきアクションを整理します。
1. 見積精査の依頼
デジタル庁のコスト最適化支援専門チームへの相談申込を検討してください。特にガバクラ利用料については、リザーブドインスタンス適用・共同利用の有無を確認することが重要です。
2. 共同利用方式の検討
同じCSP・同じパッケージを利用する近隣自治体との共同利用化により、通信回線費・運用管理費の按分が可能です。GCInsightのクラウド別ベンダー一覧では、共同利用対応状況を確認できます。
3. 移行後コスト最適化計画の策定
リフト後すぐにコスト最適化が完了するわけではありません。AWSのリザーブドインスタンス・セービングプランの適用、不要リソースの削除、マネージドサービスへの切り替えを段階的に実施するロードマップを事前に策定することが有効です。
詳細な移行コストの状況は、GCInsightのコスト効果ページで確認できます。
ガバメントクラウド移行後のコスト増加は、通信回線費の純増・クラウド最適化不足・標準化対応によるソフトウェア費増・運用管理補助委託費の新規発生・競争不足の5つの構造的要因が重なって発生しています。
「リフトしただけ」では削減効果は出ません。最適化・共同利用・見積精査の3つを移行前から計画することが、コスト抑制の鍵です。政府の財政措置・支援体制が整備されている今が、改めて移行計画を見直す好機です。
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