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デジタル庁が整備するガバメントクラウドの全体像を2026年最新情報で解説。5CSPが採択された経緯・305項目の技術要件・利用料体系・共同利用方式の仕組みまで、自治体IT担当者が実務で使える情報を一冊に。
5——これがデジタル庁の「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービスの提供(令和8年度募集)」における審査結果として選定されたクラウドサービスプロバイダー(CSP)の数です。
そのうち国産クラウドはさくらインターネットの「さくらのクラウド」のみで、残る4社はAmazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)という外資系の顔ぶれです。なぜこの構成になったのか、そしてデジタル庁はガバメントクラウドを通じて何を実現しようとしているのか。
本記事では、デジタル庁の公式調達仕様書・GCASガイド・総務省資料をもとに、ガバメントクラウドの制度設計と実態を体系的に解説します。
デジタル庁が定義するガバメントクラウドとは、政府情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS・PaaS・SaaS)の利用環境です(デジタル改革基本方針・令和2年12月25日閣議決定より)。
単一のクラウドサービスではなく、**デジタル庁が認定した複数のCSPから各機関・自治体が選んで利用できる「クラウド利用の枠組み」**である点が重要です。
利用の対象は以下の3区分です:
令和3年度(2021年度)から運用を開始し、令和8年度(2026年度)以降は各府省庁・地方公共団体・独立行政法人等での利用がさらに拡大する見込みとされています(デジタル庁「調達仕様書(令和7年度募集)」より)。
2021年に成立したデジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)では、国及び地方公共団体の情報システムの「共同化又は集約」を推進することが定められています。
さらに令和6年12月には「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(いわゆるデジタル手続法)の改正により、国の行政機関等がシステム構築する際にガバメントクラウドを検討することが義務化されました。地方公共団体や独立行政法人等については「検討の努力義務」が課されています(デジタル庁「技術要件等に係る市場調査依頼文(溶け込み版)」より)。
法改正によって、ガバメントクラウドは「使えれば便利な選択肢」から「原則検討必須の制度インフラ」へと位置付けが変わっています。
デジタル庁はCSPを採択する際、競争入札による公募を実施します。応募事業者は調達仕様書に記載された技術要件(基本事項・マネージドサービス要件)のすべてを満たすことが前提条件です。
令和5年度募集ではさくらインターネットが「条件付きで採択」されました。これは2025年度末までに必要な技術要件を満たすとする提案を提出し、デジタル庁がその妥当性を確認したためです(デジタル庁「令和5年度新規募集分 ガバメントクラウドの対象となるクラウドサービスの公募結果について」より)。
そして2026年3月27日、デジタル庁は**「さくらのクラウドが305項目すべての技術要件への適合を確認した」**と発表し、正式採択が確定しました。令和8年度募集でも再選定され、複数年度での国産CSP採択は同社が国内初となります。
ガバメントクラウドに求められる技術要件は大きく3つの柱から構成されています。
flowchart TD
A["ガバメントクラウド\n技術要件(305項目)"]
B["セキュリティ要件\nISMAP登録・データ国内保管"]
C["基本機能要件\nIaaS/PaaS/マネージドサービス"]
D["運用管理要件\nSLA・サポート体制・監査対応"]
A --> B
A --> C
A --> D
① セキュリティ要件(ISMAP登録など)
ガバメントクラウドとして採択されるには、まず「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」のクラウドサービスリストに登録されていることが前提条件です(GCASガイド「ガバメントクラウドに係る政府ルール(AWS編)」より)。
ISMAPはNIST SP800-53等の国際基準を参照した統制項目に対して、公認の監査機関が評価するセキュリティ認証制度です。AWS・Google Cloud・Microsoft Azure・OCIはいずれも国際的なセキュリティ認証取得実績があり、ISMAP登録も早期に完了していました。
② データ国内保管要件
情報資産が日本国内のデータセンターに保管されることが基本要件です。外資系CSPにとっては「政府機関向けリージョン」の整備が必要となり、さくらインターネットにとっては国内事業者としてのアドバンテージでもあります。
なお令和8年度募集の調達仕様書では、最新の生成AIモデルが国外のみで利用可能なケースへの対応として「国外利用の例外規定」も追加されており、技術革新に合わせた柔軟化が図られています。
③ マネージドサービス提供要件
自治体が安心して利用できるよう、単純なインフラ提供にとどまらず、アカウント管理・監査ログ・技術サポートなどマネージドサービスの提供が求められます。これがスタートアップや中小規模クラウド事業者にとっての高い参入障壁となっています。
国産クラウドの参入が1社にとどまる背景には、技術要件の水準の高さと長期間にわたる認証取得プロセスがあります。さくらインターネットは2023年末から約2年半の整備期間を経て全305項目をクリアしました。
| CSP | 採択時期 | 本格稼働 |
|---|---|---|
| Amazon Web Services(AWS) | 令和3年度 | 2021年度〜 |
| Google Cloud | 令和3年度 | 2021年度〜 |
| Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | 令和4年度 | 2023年度〜 |
| Microsoft Azure | 令和4年度 | 2023年度〜 |
| さくらのクラウド | 令和5年度(条件付き)→令和8年度(正式) | 2026年3月〜 |
出典: デジタル庁「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービスの提供(令和8年度募集)における審査結果」、朝日新聞「ガバメントクラウド、日本企業で初の正式採用 さくらインターネット」
自治体がガバメントクラウドを利用する方法は「共同利用方式」と「単独利用方式」の2種類があります。デジタル庁は運用効率の観点から共同利用方式を推奨しています(デジタル庁「地方公共団体のガバメントクラウド利用案内 v3.0」(2025年3月)より)。
「ガバメントクラウド運用管理補助者」(ASPベンダー等)があらかじめ設定・運用管理の方法を準備し、複数の自治体が同一の環境を共同利用する方式です。
自治体のメリットは以下の3点です:
自治体が独自にガバメントクラウドの個別領域を取得し、独自設定で運用する方式です。大規模自治体や特殊な業務要件がある場合に選択されますが、専門的なクラウド運用スキルが必要です。
flowchart TD
A["デジタル庁\n(クラウド環境提供)"]
B["CSP 5社\nAWS/GC/Azure/OCI/さくら"]
C["ガバメントクラウド\n個別領域払い出し"]
D["共同利用方式\n(ASP経由・推奨)"]
E["単独利用方式\n(自治体独自設定)"]
A --> B
B --> C
C --> D
C --> E
デジタル庁はガバメントクラウド管理組織として、CSPから自治体向けの個別領域を払い出し、その上にIaC(Infrastructure as Code)による最低限のセキュリティ設定を施した環境を提供します(GCASガイド「ガバメントクラウドが提供する環境」より)。
自治体が負担するガバメントクラウドの利用料金は、「当該自治体が利用するクラウドサービスに応じてCSPがデジタル庁に請求する金額に相当する額」を原則とします(デジタル庁「地方公共団体のガバメントクラウド利用案内 v3.0」3.1.6条より)。
つまり実際の使用量に比例した従量課金が基本です。共同利用方式の場合、ASPが複数自治体の利用量を取りまとめてデジタル庁に報告し、各自治体は按分された利用料を支払う仕組みとなります。
flowchart LR
A["各自治体\n(利用量に応じて支払い)"]
B["デジタル庁\n(一括取りまとめ)"]
C["CSP 5社\n(実費請求)"]
A --> B
B --> C
2024年度はデジタル庁が自治体分も含めた利用料を一括負担する形でしたが、2025年度以降は各自治体が負担する制度に移行しています。デジタル基盤改革支援補助金(総務省)との連動で実質負担を抑える仕組みも設けられていますが、補助率や対象期間は移行状況によって変化します。
DRコスト(Disaster Recovery:事業継続計画上の冗長化コスト)はパターン選択によって大きく変わります。デジタル庁「地方公共団体のガバメントクラウド利用案内 v3.0」では「DRパターンによりコストが大きく変わる」と明記されており、ASPやベンダーと事前に要件を詰めることが推奨されています。
ガバメントクラウドと自治体標準化は不可分の関係です。地方公共団体情報システム標準化基本方針(令和5年9月閣議決定)では、以下の20業務の基幹システムをガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへ移行することが求められています。
| 分野 | 対象業務 |
|---|---|
| 福祉・子ども | 児童手当、子ども・子育て支援、児童扶養手当、生活保護、障害者福祉 |
| 住民管理 | 住民基本台帳、戸籍の附票、印鑑登録、選挙人名簿管理、戸籍 |
| 税 | 固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税 |
| その他 | 就学、健康管理、介護保険、国民健康保険、後期高齢者医療、国民年金 |
出典: 総務省「地方公共団体情報システムの標準化・ガバメントクラウドについて」(2026年2月)
当初の移行期限(2025年度末)に対して多くの自治体で移行が間に合わなかったため、デジタル庁・総務省は「特定移行支援」の枠組みを設けました。
2025年12月末時点で34,592システムのうち8,956システム(25.9%)が特定移行支援システムに該当するとされており、これらのシステムについては2026年度以降も移行支援が継続されます(デジタル庁公式データ)。
GCInsightが集計した最新データ(2026年4月時点、全1,741自治体)では、20業務すべての標準準拠システムへの移行を完了した自治体は約3.7%にとどまっています。残り96.3%の自治体は何らかの形で移行対応が継続中です。
ガバメントクラウドの根幹的な目的の一つは、従来の自治体システムに蔓延していたベンダーロックインの解消です。
従来、自治体の基幹システムは特定ベンダーのプロプライエタリ(独自仕様)な環境で構築されており、更新・乗り換えに膨大なコストと時間を要してきました。ガバメントクラウド上に標準化されたアプリケーション層を乗せることで、「他ベンダーへの移行をいつでも可能とする競争環境」を確保することを目指しています(総務省「地方公共団体情報システム標準化基本方針」(令和5年9月)より)。
スタートアップや地方のベンダーも、ガバメントクラウドのインフラを前提として自社アプリを開発すれば全国展開の可能性が生まれます。
各自治体が個別にサーバー・ミドルウェアを調達・運用する従来モデルと比較して、クラウドの共通基盤を活用することでハードウェア・OS・ミドルウェアの整備・管理が不要になります。
ただしクラウド利用料の実態については、移行してみて初めて判明するケースも多く、「オンプレより高くなった」という声も一部の自治体から報告されています。DR設計やシステム規模によって大きく変わるため、移行前の概算見積もりが重要です。
令和8年度募集の調達仕様書では、生成AIを含むAI関連サービスをガバメントクラウドのガバナンスの範囲内で利用できるようにすることが明記されています。
これは政府・自治体がガバメントクラウドを通じてAIサービスを安全に活用できる基盤整備を進めるものです。今後のガバメントクラウドは単なるインフラ基盤から、AI活用を含むデジタル行政プラットフォームへと進化していく方向性が示されています。
Q1. ガバメントクラウドに移行すると、現在使っているシステムはどうなりますか?
A: ベンダーが標準仕様に適合した「標準準拠システム」を開発し、ガバメントクラウド上に乗せた形で提供します。自治体は同じ業務をクラウド経由で行うことになりますが、UIや機能の一部が変わる可能性があります。移行前に担当ベンダーと要件確認を行うことが必要です。
Q2. 5つのCSPのどれを選べばよいですか?
A: 自治体が直接選ぶのではなく、利用するASP(パッケージベンダー)が対応するCSPを選定します。ASPが「このシステムはAWSで動作します」という形で提示するため、まずはASPへの確認が先決です。コスト比較についてはGCInsight(gcinsight.jp)のコスト比較データも参考にできます。
Q3. さくらのクラウドはいつから使えますか?
A: 2026年3月27日からガバメントクラウドとしての本番サービス提供が開始されています。ただし対応するASPが限られるため、実際に自治体が選択できるかどうかはASPの対応状況を確認する必要があります。
Q4. 移行期限(2025年度末)を過ぎましたが、罰則はありますか?
A: 現時点で明示的な罰則規定はありません。ただし「特定移行支援」の対象となった団体は、別途策定するスケジュールに従った移行計画の提出・実行が求められます。移行の遅延が長引くと補助金の対象外となるリスクが生じるため、早期に移行計画を固めることが実務上重要です。
Q5. デジタル庁とASP・ベンダーの役割分担は何ですか?
A: デジタル庁はCSPの認定・クラウド環境の払い出し・利用料の一括管理を担います。ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)はガバメントクラウド上でアプリケーションを開発・提供し、共同利用方式の場合は運用管理補助者としてクラウド環境の日常管理も担います。自治体はアプリケーションの利用者であり、利用料をデジタル庁に支払います。
デジタル庁ガバメントクラウドの仕組みを把握した次のステップとして、以下を確認してください。
gcinsight.jpでガバメントクラウドの最新データと自治体別進捗を確認してください。
本記事は以下の一次資料をもとに執筆しています。
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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2026-04-28