
中核市62市の97%がコスト増大を経験
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ガバメントクラウド移行は「コスト3割削減」を掲げてスタートしましたが、現場の実態は大きく異なります。内閣府規制改革推進会議の調査(2024年11月25日)によれば、中核市62市のうち97%にあたる約60市がコスト増大を回答。平均2.3倍、最大では5.7倍に達する事例も確認されています。
本稿では、この乖離が生じた構造的要因を分析し、FinOpsや共同利用といった具体的な対策を解説します。
政府がガバメントクラウド推進の根拠としてきた「コスト3割削減」は、自治体クラウドの共同利用による規模の経済を前提とした試算です。しかし、実際の移行では複数の前提が崩れました。
デジタル庁が2024年9月6日に公表した中間報告では、ガバメントクラウドへの移行後にランニングコストが増加した団体として宇和島市・須坂市・せとうち3市・美里町・川島町・笠置町が例示されています。これらの団体では「通信回線費」「クラウド利用経費」「ソフトウェア借料・保守料」の3項目がコスト増加の主因となっています(出典: デジタル庁 令和5年度投資対効果検証中間報告)。
当初の削減見込みと実態の乖離は、既存の自治体クラウド環境からガバメントクラウドへ移行する際に、従来の構成から新たな費用が上積みされる構造的な問題に起因しています。
内閣府規制改革WGが2024年11月に公表した調査データによると、コスト増加は団体規模によって大きく異なります。
| 団体区分 | 平均コスト増加倍率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 区部(特別区等) | 約1.5倍 | 既存IT投資が大きく、既存クラウド活用が進んでいる |
| 市部(一般市) | 約1.7倍 | 自治体クラウド利用実績があるケースで増加幅が拡大 |
| 町村部 | 約2.0倍 | 既存システムが老朽化・レガシー環境が多く増加幅大 |
| 中核市(全体) | 平均2.3倍(最大5.7倍) | 調査対象62市の97%(約60市)がコスト増大 |
(出典: 内閣府規制改革推進会議WG 2024年11月25日資料)
区部と町村部で倍率が大きく異なる背景には、既存システムの構成差があります。区部はすでにクラウド環境への移行が一部進んでいるケースが多く、追加コストが相対的に小さくなります。一方、町村部では自治体クラウドを含むオンプレミス環境からの移行となるため、回線整備や運用体制の再構築コストが上乗せされます。
デジタル庁の中間報告および内閣府WGの分析から、コスト増加の要因は以下の3つに集約されます。
1. 通信回線費の増加
既存の自治体クラウド・共同利用環境では庁内LANとデータセンター間の回線が整備済みですが、ガバメントクラウドへの移行では新規の接続拠点(ロケーション)向け回線が必要になります。共同利用する場合でも、各団体の庁舎とガバメントクラウド接続拠点をつなぐ専用回線費が発生し、これが月額数十万円規模の固定費となるケースがあります。
2. クラウド利用料の増加
ガバメントクラウドのクラウド利用料(AWS・OCI等のIaaS料金)は、移行直後には既存環境と同等のリソースをクラウド上に展開するため、いわゆる「リフト」段階では割高になります。予約割引(RI/Savings Plans)や長期継続割引を活用せず、オンデマンド料金のまま稼働させているケースでは、コスト削減効果が得られません。
3. 運用管理費(ソフトウェア借料・保守料)の増加
既存の自治体クラウド環境に残るシステムの保守料が継続される一方で、ガバメントクラウド側の運用管理費も発生する「二重払い」状態が移行過渡期に生じます。また、クラウド環境に対応したシステム運用の内製化が進んでいない団体では、ベンダーへの運用委託費が増加します。
内閣府規制改革推進会議WGが2025年3月28日に公表した資料によると、デジタル庁が実施したガバメントクラウド料の見積精査支援(331自治体が希望)のうち、精査完了41団体の結果は以下の通りです。
「ガバメントクラウド利用料においては、平均約3割のコスト削減余地が存在することが確認された」(出典: 内閣府規制改革推進会議 2025年3月28日資料)
削減率の内訳は16〜60%と団体によって幅がありますが、主な精査観点は次の4点です。
| 精査観点 | 具体的な対応内容 |
|---|---|
| 稼働時間の最適化 | 検証環境・開発環境の夜間・週末停止 |
| ストレージ容量の最適化 | 不要データ削除・ストレージ容量削減 |
| インスタンスタイプの最適化 | インスタンスタイプ変更・コンピューティングサイズ見直し |
| 長期継続割引の活用 | 予約割引・長期利用割引の適用 |
これらの対策はFinOps(Cloud Financial Operations)の実践そのものです。FinOpsは「見える化・分析・最適化」のサイクルを継続的に回すことで、クラウドコストを恒常的に逓減させる取り組みです。
デジタル庁はGCASガイド(GCAS利用ガイド)でも、FinOpsに基づく継続的な運用経費最適化への取り組みを自治体に推奨しています。精査支援を受けていない団体でも、このガイドラインに基づいて自律的に最適化を進めることで費用低減が十分に見込まれます。
FinOpsの具体的な実践手順については、自治体のためのFinOps入門で詳しく解説しています。
個別に移行するよりも、複数自治体が共同でガバメントクラウド環境を構築・運用する「共同利用方式」が、現時点で最も効果的なコスト削減策として注目されています。
岡崎市・豊橋市の事例では、共同利用方式を採用することで5年間で約16億円(45%)のコスト削減を達成しています。この数字が注目される理由は、単独移行では逆にコストが増加しがちなところを、共同利用によって逆転させた点にあります。
共同利用によるコスト削減の主なメカニズムは以下の3点です。
共同利用の詳細な比較と実務上の注意点については、共同利用でコスト45%削減の成功事例をご参照ください。
コスト実態の全体像を把握したうえで、自団体の移行コストを他団体と比較することが重要です。GCInsightのコスト効果ダッシュボードでは、全国の自治体のガバメントクラウド移行コストデータを団体規模・都道府県別に可視化しています。
自団体のコスト見積もりが平均と比較して高いかどうか、FinOps適用によってどの程度の削減余地があるかを確認することで、来年度の予算折衝における根拠データとして活用できます。
ガバメントクラウド移行コストの「2倍超え」は、システムの設計や移行方式の選択によって回避・軽減できる問題です。FinOpsによる継続的な最適化と共同利用方式の活用を組み合わせることで、政府が掲げる「3割削減」目標に近づくことは十分に可能です。まずは見積精査から着手し、具体的な削減余地を可視化することをお勧めします。
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