
2026年3月、さくらのクラウドがガバメントクラウドの全技術要件を充足し正式認定されました。AWS92.6%という寡占構造の実態と、外資依存のリスク、自治体が国産クラウドを選ぶ際のメリット・注意点を解説します。
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2026年3月27日、さくらインターネット株式会社の「さくらのクラウド」がガバメントクラウドの全技術要件を充足し、正式に利用可能なクラウドサービスとして認定されました。
この経緯をたどると、2023年11月にデジタル庁が「2025年度末までに全要件を満たすことを条件に採択」という条件付き採択を行ったことに始まります(出典: デジタル庁「令和5年度新規募集分 ガバメントクラウドの対象となるクラウドサービスの公募結果について」2023年11月28日)。それから約2年半をかけて、さくらインターネットは順次技術要件の充足を進め、今回の正式認定に至りました。
現在、ガバメントクラウドの対象クラウドサービスは以下の5社5サービスです。
| クラウドサービス | 事業者 | 国籍 | 認定時期 |
|---|---|---|---|
| Amazon Web Services (AWS) | Amazon Web Services, Inc. | 米国 | 2021年(初回採択) |
| Google Cloud | Google LLC | 米国 | 2021年(初回採択) |
| Microsoft Azure | Microsoft Corporation | 米国 | 2022年 |
| Oracle Cloud Infrastructure (OCI) | Oracle Corporation | 米国 | 2022年 |
| さくらのクラウド | さくらインターネット株式会社 | 日本 | 2026年3月(正式認定) |
さくらのクラウドは5社の中で唯一の国産クラウドです。
正式認定を得たさくらのクラウドが向き合う現実は、すでに形成されたAWSの圧倒的寡占です。
GCInsightが把握している本番環境データによれば、現時点でガバメントクラウド上に構築された175本番環境のうち162がAWSを選択しており、その比率は**92.6%**に達します。Google Cloud、Microsoft Azure、OCIの3サービスがそれぞれ数本程度の本番環境を持つ一方、さくらのクラウドは正式認定直後であり、移行事例の蓄積はこれからの段階です。
pie title ガバメントクラウド 本番環境シェア(175環境)
"AWS" : 162
"Google Cloud" : 5
"Microsoft Azure" : 4
"OCI" : 4
なぜここまでAWSが選ばれたのか。主な要因として以下が挙げられます。
先行採択と実績の蓄積: 2021年の初回採択から最も早く運用実績が積み上がり、移行ノウハウを持つSIerも集中した。
デジタル庁の先行移行案件: デジタル庁自らが推進した「先行移行」プロジェクトでAWSが多数選ばれ、これが後続自治体の判断基準となった。
AWSパートナーエコシステムの充実: 標準準拠パッケージベンダーの動作確認・推奨環境がAWSであるケースが多く、自治体が実質的な選択肢を持ちにくい構造が生まれた。
この結果、ガバメントクラウドは制度設計上は「マルチクラウド」を標榜しながらも、実態としてはAWSへの集中が急速に進んだ状況となっています。
デジタル庁経済産業省が2026年2月に公表した「デジタル・サイバーセキュリティWG 第1回事務局説明資料」は、クラウド基盤をめぐる国際動向を次のように整理しています(出典: デジタル庁「20260203_digital-cybersecurity.outline.04.pdf」)。
「信頼性が高く、安定的なクラウドプラットフォームの確保が経済成長や産業発展、社会サービス維持の制約要件となりつつある」
米国は民間ハイパースケーラーが主導する垂直統合型、欧州はデータ主権を掲げた分散管理型、中国は国家主導型と、各国がクラウド基盤の自国コントロールを重要課題と位置づけています。日本の行政システムの中核をほぼ1社の外資クラウドに依存する現在の構造は、地政学的リスクが顕在化した際の継続性を担保できない懸念があります。
外資クラウドの場合、データの物理的な保管場所が国内であっても、そのサービスに適用される法令は本社所在国(米国)の法律の影響を受けます。米国の**CLOUD Act(クラウド法)**は、米国政府が米企業の保有データへのアクセスを要求できる権限を定めており、個人情報・住民情報を含む自治体データが法的要請の対象となりうる可能性があります。
AWSの料金体系は米ドル建てです。2021年〜2023年にかけての円安局面では、実質的なクラウドコストが為替変動だけで大幅に上昇しました。ガバメントクラウドのコストが「高い」と指摘される一因の背景に、この為替変動が含まれています。国産クラウドへの分散は、こうした通貨リスクの低減という財政的観点からも意義があります。
デジタル庁は標準化対象業務に対してマルチクラウドでの調達を推奨していますが、実際には移行コスト・設定コストの大きさから、一度選択したクラウドを変更することは容易ではありません。本番稼働後のクラウド移行は、既存設定・ネットワーク構成・SIerとの契約を含む大規模な作業となり、事実上のロックインが生じています。
今回の正式認定により、自治体はガバメントクラウドの標準準拠システム移行においてさくらのクラウドを選択できるようになりました。これは制度上の重要な変化です。デジタル庁が公認した選択肢に国産クラウドが加わったことで、自治体が「国産を選ぶ」という判断を調達手続きの中で正当に行えるようになりました。
以下のフローは、自治体がクラウドを選択する際の判断プロセスを示しています。
flowchart TD
A[自治体の移行計画策定] --> B{SIer・パッケージ<br/>ベンダーの対応状況確認}
B --> C[さくらのクラウド対応パッケージがある]
B --> D[AWS対応のみ]
C --> E[さくらのクラウドを選択可能]
D --> F[AWS選択が現実的]
E --> G[コスト・主権・為替リスク低減]
自治体が実際にさくらのクラウドを採用できるかどうかは、利用する標準準拠パッケージが「さくらのクラウド上での動作保証」を提供しているかに依存します。現時点では、多くの標準準拠パッケージはAWSを主要動作環境として開発・検証しており、さくらのクラウドへの対応は限定的です。
また、移行支援を担うSIerのノウハウもAWS中心に蓄積されています。さくらのクラウド上での移行支援実績を持つSIerは現時点では少なく、調達段階でパートナーを見つけることが課題となります。
さくらのクラウドへの移行を検討する自治体にとって、現実的に確認すべき事項を整理します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| パッケージ対応状況 | 採用予定の標準準拠システムがさくらのクラウドを動作保証環境としているか |
| SIer体制 | さくらのクラウド上での標準移行を支援できるSIerが存在するか |
| コスト試算 | AWSとさくらのクラウドの実際のコスト見積もりを比較したか(為替含む) |
| 移行スケジュール | 2025年度末の法定期限に間に合うか(さくら対応パッケージ提供時期の確認) |
| 運用体制 | 移行後の運用サポート・障害対応体制がAWS同等以上か |
特に「パッケージ対応状況」は最優先の確認事項です。どれだけ国産クラウドへの移行意欲があっても、採用するパッケージが対応していなければ選択できません。APPLICの標準準拠製品登録リストと合わせて、各ベンダーへの個別確認が必要です。
さくらのクラウドの正式認定は、日本のガバメントクラウド政策において象徴的な意味を持ちます。ただし、現時点のシェアデータが示すように、AWSへの集中は既成事実として積み重なっており、短期間での逆転は現実的ではありません。
今後の国産化比率向上に向けた現実的な道筋は、以下の段階的なアプローチと考えられます。
経済安全保障の観点から、政府はガバメントクラウドにおける国産クラウドの比率向上を重要課題と位置づけています。さくらインターネットの正式認定は、この課題に対する第一歩として評価できますが、実態としての普及は今後のパッケージ対応・SIer体制の整備にかかっています。
ガバメントクラウドのベンダー別移行状況はクラウド別ベンダーページで継続的に更新しています。自治体ごとの移行進捗については都道府県別ダッシュボードもあわせてご参照ください。
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